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「――ラインハルト様っ。お久しぶりです」
「おー、水瀬。元気だったか」
「はい、会いたくて堪りませんでしたっ」
そう言って水瀬は俺をがばっと抱きしめる。
無駄にデカいから有坂みたいに抱き込まれたが、久々だからって何調子に乗ってんだコイツ。
放課後の昇降口。
これからバイトに行こうと靴を履き替えていたところで、水瀬に捕まった。
そういや昨日の夜に『明日から学校行きます』ってメッセが来てたっけ。
とりあえずぐいと引き剥がしたら、不満そうな顔を向けられる。
が、どうやら不満なのは引き剥がしたことじゃないらしい。
「…キスマーク、まだありますね」
「なにちゃっかり確認してんだよ」
「僕がいない間にラインハルト様がゼタスに襲われてないか、心配でなりませんでした」
「最近は別に襲われたりとかしてねーよ」
むしろめちゃくちゃ合意だ。
どことなく拗ねたように言った水瀬の頭を背伸びしてポンと叩いてやると、ふにゃりと水瀬は笑顔を見せる。
ドラマでドS幼馴染役やってた奴とはエライ別人だ。
「それなら良かったです。…あっ、そうだ雑誌。まさかラインハルト様と同じ雑誌に掲載される日が来るなんて思わなくて、驚きました」
「ああ、そういやお前あの雑誌表紙だったよな」
「はい。初掲載で特集ページ組まれるなんてなかなかありませんし、部数も問い合わせもいつもより凄かったらしいですよ。やっぱりラインハルト様は素晴らしい方ですっ」
「まあ俺くらいになると当然だけどさ、でもアレのせいでちょっと迷惑してんだよな…」
俺の周りは相変わらず鬱陶しいほどざわついてるし、最近ハルヤンと始めたバイト先も徐々に俺目当ての客が増えてる気がする。
騒いでる女子にはハルヤンが一応「内緒にしてね」って言ってくれてるけど、まあそれは混みあって忙しくなったら困るからだろう。
ハルヤンの紹介先に騙されて雑誌に載せられた話をしてやると、水瀬は難しい顔で考え込む。
「…そんなことが。この業界、利益のためには手段を選ばない方が多いですから」
「へー。やべー世界だな」
「成功すれば見返りも大きい世界なので。ですが僕の方からも二度とそんなことがないよう言っておきますね」
水瀬はそう言ったが、別に俺としてはこの業界に二度と関わるつもりはないからどうでもいい。
ロッカーから落ちた手紙の束を水瀬に拾わせながら、靴に履き替える。
水瀬が帰ってきたならゲー研にも寄りたいところだが、今日もバイトに行く約束をしてしまった。
暇だとマスターに料理を教えてもらったりも出来るから、最近ちょっと楽しい。
有坂の家に遊びに行く時があったら、次は朝飯じゃなくてちゃんとした料理を作ってやりたい。
それに俺の何も無かった毎日に、また一つ選択肢が増えた。
有坂と遊ぶこと。
ゲー研で遊ぶこと。
ハルヤンとバイトすること。
「…ですが残念です。いつかラインハルト様と一緒にお仕事出来る日が来るのかと、ワクワクしてたんですけど」
「ああ、それはねーな。もう雑誌には出る気ねーし」
「こればかりは仕方ないですね。…それにしてもやはり盗賊ハイネは侮れない。彼は魔王ゼタスとは違う方法で勇者様に仇なす者だ」
なんか神妙な顔で言ってるが、ちょっと待て。
盗賊ハイネは誰だ。
「僕、盗賊と魔王から一生懸命勇者様をお守りしますね」
よく分からんが賢者エトワールの中で更に敵が増えたらしい。
とりあえず何か決意しているらしい水瀬の額を小突いてやる。
「別にハルヤンが悪いわけじゃねーよ。ハルヤンも契約と違うって珍しくちょっと怒っててさ。俺にも謝ってくれたし」
「…あ、あのハイネがですか?」
「おー。だからそんな敵ばっか作るな」
水瀬が少し驚いた顔をしたが、そういや俺なんでハルヤンなんか庇ってんだ。
自分でも珍しい言葉にあれ?と思ったが、水瀬が俺を優しいって讃えてるからまあいいことにする。
どうやら俺の心の広さが出てしまったらしい。
「それに勇者は守られるんじゃなくて守る側なんだよ。立場を履き違えるな」
「…っラインハルト様、カッコいいです…!」
俺の言葉に水瀬がキラキラと尊敬の眼差しを向けてくる。
やっぱり水瀬とは話が合う。
有坂にこんなこと言ったら、絶対意味分かってないのに「そうか」って言われて頭を撫でられて可愛がられてキスされて愛されまくるに決まってる。
水瀬と別れて、駅までの道を歩く。
ハルヤンは用事があって遅れていくとか言ってたから、一人でバイト先へと向かう。
相変わらず平日はめちゃくちゃ暇な喫茶店で、誰もいなければ今日はマスターも裏で新聞読みながら寝こけてる。
ほんと趣味経営って自由だな。
とはいえ店側ってのはわりと物珍しくて、見たことの無い機材やコーヒー豆、紅茶なんかを興味津々に観察しながら時間を潰す。
もし美味いなら有坂にも今度飲ませてやりたい。
適当に時間を潰していると、携帯にハルヤンからメッセが届いた。
見てみればどうやら今日は来れなくなったらしい。
暇だから気にすんなって返すと、ハートマークのスタンプが返ってきた。
気持ちわりーな。
そういや今日は水瀬に言われてなんとなくハルヤンを庇ったけど、最近ハルヤンは前みたいに俺に詐欺師行為を働いてこない気がする。
それに前は有坂相談したら決まって代わりに何か求めてきたけど、今はそういうわけでもなくフツーに話を聞いてくれる。
なんだかんだ言いながら有坂相談も結構真面目に答えてくれるし、ハルヤンがメンヘラに追いかけられた世にも恐ろしい話を聞いてやったりもしたし、ここ最近ぽろっと自分の話が出てきたりもする。
このバイト先だって別に何があるわけでもなくただ暇つぶしに誘ってくれただけだし、マスターもいい人で思ったより楽しい。
ハルヤンは俺にエッチもチューも出来るって言ってたけど、それは俺がイケメンすぎるから普通のことだ。
だからといってハルヤンが俺を好きにはなることはないだろうし、俺もアイツを好きにはならない。
ふと気付く。
「…あれ、もしかしてハルヤンと俺って――」
そう言いかけたところで、カランとベルが鳴った。
見れば数人のスーツ姿の大人が入ってきて、慌てて客だと姿勢を正す。
「いらっしゃいませ。どうぞお好きな席にお掛け下さい」
旅館じゃなく喫茶店用の挨拶をハルヤンに教えてもらったから、さっそく実践してみる。
が、数人のスーツ姿の大人は構わず真っ直ぐに俺の元へと歩いて来た。
すぐに名刺を取り出すと、俺に差し出す。
そこにはハルプロダクションと書いてあった。
「結城益男さんですね。今日はご友人の春屋くんからご紹介を受けて伺わせて頂きました。是非私どものお話を聞いていただきたいのですが――」
スーッと俺の中で何かが冷えていく。
――なるほど、結局そういうことかよ。
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