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「絶対嫌だ。絶対に無理」
ありえないことを有坂に言われた。
二週間も有坂に会えないとか、無理に決まってる。
前代未聞だ。
常識を超えている。
いくらなんでも人として言っちゃいけないことがある。
「俺も離れ難いと思っている。だが冬休み中は閉寮されてしまうんだ」
「なら俺の家に泊まればいいよ。な、いいだろ?」
「それは魅力的な申し出だが、年末年始は旅館も繁忙期だ。手伝いをしに帰らなければならない」
「じゃあ俺も行く」
きっぱりとそう言ったら、有坂の手が頬に伸びてくる。
包み込むようにむにむにと両頬に触れられてから、額に口付けられた。
愛しむように目蓋や目尻、鼻先にも唇を押し付けて、最後に頬擦りするように抱きしめられる。
甘ったるい仕草にトクトクと心臓が速くなっていく。
良かった。
俺を一緒に連れて行ってくれるんだ。
冬休みも有坂と一緒にいられる。
「さすがにダメだ。年末年始くらい結城は家族とゆっくり過ごした方がいいだろう」
「――ええっ!?」
なんだったんだよ今の触れ合いは。
完全に連れてってくれる流れだっただろーが。
昼休みの部室。
有坂の言葉は唐突かつ絶望的で、俺はただただ呆然としてしまう。
昨日はあんなに俺だけを一生愛し続けるって言ってめちゃくちゃエロいことまでしたのに、今日になったら俺の事突き放すのかよ。
こんなの完全にヤリ捨てされた気分だ。
「…結城、俺も連れていけるものなら連れていきたい。だが冬休みまで結城の時間を奪ってしまっては家族が悲しむのではないか」
そう言われて少し考えてみる。
とりあえず間違いなく母親が悲しむのは分かってる。
それはどうでもいい。
だけど年末年始は海外に住んでる一番上の兄貴が帰ってくるし、兄貴には会いたい。
でも有坂に会えないのもめちゃくちゃ嫌だ。
「結城、帰省をしても毎日電話する。お前の事をいつも想っている」
「嫌だっ。二週間はさすがに無理だ」
「だがこればかりはどうすることも出来ない。いい子だから分かってくれないか」
「絶対に嫌だ…っ」
冷静に考えても二週間は長すぎる。
休日や祝日で有坂に会えない時も不安でしょうがないのに、二週間も会わなかったら俺の心がズタボロになってしまう。
――いや、正直俺の気持ちはどうでもいい。
一番嫌なのは、長期間会わない間に有坂の気持ちが離れてしまうことだ。
俺には有坂がいないと生きていけないのに、時間を空けたら有坂の気持ちが覚めてしまうかもしれない。
もしそんなことになったらと思うと、身体が竦むような恐怖が襲ってくる。
「…そうか。結城がそんなに嫌だと言うのならまだ少し時間もあるし、俺も何か考えてみよう」
「うん、絶対だぞ。俺本気で嫌だからな」
「分かった。困らせることを言ってすまなかった」
有坂はそう言って優しく目を細めて髪を撫でてくれる。
心臓は嫌な感じにドキドキしていたが、今はその優しさに縋るしかなかった。
「は?一生の別れじゃあるまいし二週間くらいで大袈裟すぎでしょ」
「――えっ」
放課後。
校門で女子を口説いてたハルヤンを捕まえて、この緊急事態な悩みを聞いてもらう。
あっさり大袈裟とか言われたが、どうやらハルヤンは事の重大さを全く分かってないらしい。
「そんなことより今あとちょっとで部屋に連れ込んでヤレそうだったのに、俺の性欲どうしてくれんの」
「え、でもさっきハルヤンが口説いてた女子俺のこと見て顔真っ赤になってたぞ。見込みねーよ」
「うわあ、腹立つイケメン発言。マジで襲ってやろうかな」
そうは言ってもハルヤンは俺に手を出さないだろうという謎の信頼感がある。
下校する女子達の嬉々とした視線をいつも通り受けながら、校門脇の壁に寄りかかるハルヤンと話をする。
「ところで結局付き合ったの?親友なの?最後までの意味分かった?ありちゃんのデカい?」
俺ばりの連続質問を飛ばしてきたハルヤンにじとりと目を細める。
茶化す気満々のニヤケ顔だが、コイツ俺の相談聞く気あるのかよ。
「とりあえずデカい。あとは…分かんね」
「そこだけはハッキリしてるってありちゃんの一体どれだけよ」
「…有坂と恋人になったら、冬休み俺も一緒に連れてってくれるかな」
ぽつりと呟く。
どうしたら有坂と冬休みを一緒にいられるだろう。
考えてくれるとは言ったけど、もし離れるようなことになったらと思うと気持ちが落ち込む。
たった一人ぽつんと暗い部屋に取り残されたような気持ちになる。
「そんなに好きなら付き合えばよくない?ありちゃんはなんて言ってんの」
「…有坂はそこには何も言ってない」
「それ伝わってないんじゃないの?案外ありちゃんもう恋人同士だと思ってる可能性あるよね」
「えっ」
さすがにそれはないはずだ。
俺はちゃんと悩んでいることは有坂に伝えた。
もう二度とすれ違わないように、ちゃんと伝えられたはずだ。
「まあたまにはありちゃんの気持ち考えて我慢してあげたら?ありちゃんだって年末年始くらい子守りから解放されたいでしょーよ」
「――はぁ!?」
淡々と言ってのけたハルヤンの言葉にムカッとする。
子守りとかまたありもしない暴言吐かれた。
それに俺はいつだって有坂の気持ちを考えてるし、たくさん我慢だってしてきてる。
冬休みの件はたまたま我慢の限界なだけだ。
「ま、でも冬休み中暇なら俺も構ってあげるからさ。寂しくなったら電話しておいで」
「え」
そう言って珍しくハルヤンがニコッと俺に笑うから、ちょっと驚く。
だがちょっと待て。
その胡散臭い笑顔は女子口説く用の笑顔じゃないのか。
「なんで上から目線なんだよ。どうせ何か企んでんだから電話して下さいの間違いだろうが」
「あ、バレた?いや前に合コンした年上のお姉さんがマッスー呼べってうるさいんだよねー」
なんて話をしていたら、キッと音がして俺の目の前に車が止まる。
ピカピカの黒塗りの高級車に、周りにいた女子がきゃあっと色めき立つ。
運転席からガタイの良いスーツの男が出てきたかと思うと、礼儀正しく俺に一礼する。
それから促すように後ろの座席のドアを開けた。
ヤレヤレと息を吐きだして、車へと足を向ける。
そう。
なぜさっきから校門の前で立ち話をしていたかというと、有坂が母親に雑誌やスカウトマンの話をしたせいでめちゃくちゃ心配されて、しばらくの間俺は送迎付きになってしまった。
信頼できる父さんのSPだとかいう奴をわざわざ寄越してきたが、本当だったら有坂が部活に行かないで俺を送り迎えしてくれるはずだったのに。
ちらりとグラウンドを見ると、楽しそうに部活をしている有坂が見える。
だけど俺の方にはちっとも気づいてくれない。
「いやー俺まで送って貰っちゃって悪いっすねー。駅前までいいっすか」
ちゃっかりハルヤンが俺より先に乗り込んでいるが、コイツ図々しいな。
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