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「…必ずリベンジしてみせる」
「ふふ、お待ちしていますね。卒業までには多少なりとも実力をつけて貰いたいものです」
俺を差し置いてなんか盛り上がってるが、そんなことより有坂がゲームに努力しだして俺と遊んでくれなくなったらどうすんだ。
これ以上有坂が俺以外に夢中になる理由なんかいらねーんだよ。
有坂の仇を打つかの如く水瀬をフルボッコにしてやってから、会長との決勝戦となる。
さすが子供の頃からやり続けてるだけあって、他のどのゲームよりも会長は強かった。
壮絶なバトルの後、俺は人生で初めての敗北を味わった。
いや、もちろんゲームで負けたことはあるが、兄貴に負けるのと他人に負けるのじゃイラつきが違う。
同様にネット対戦で負けるのと目の前で人に負けるのとじゃムカつき度が明らかに違う。
「も、もう一回っ」
「ふふ、いいよ。結城君の苦戦してる姿新鮮だなぁ」
しかも会長は今日勝たないともう再戦できないから、このままじゃ終われない。
勝ち逃げなんて絶対に許さない。
俺の怒涛の『もう一回』は勝つまで続き、勝ったところで「もう一回」とゴネてきた会長の意見を突っぱねて終了した。
気分が良いところで他ゲーに移り、有坂のプレイに口出ししまくったり、水瀬に尊敬されまくったり、会長と白熱したバトルを繰り広げていたところで予鈴が鳴る。
楽しい時間は本当にあっという間だ。
今日は有坂も会長が最後ってことでいつもの『ゲームは二時間まで』は言ってこなくて、思う存分遊ぶことが出来た。
とっぷりと暮れた窓の外を見て、会長のめちゃくちゃクドい別れの挨拶と共にお開きになる。
「楽しかったですねっ、ラインハルト様」
「楽しかったけどなんでお前が俺を送るんだよ」
真っ暗な帰り道。
駅までの道を歩きながら、隣を歩く姿に目を細める。
なんで隣を歩いてるのが有坂じゃなくて水瀬なんだ。
「それはもちろん僕がゼタスとの勝負に勝ったからです。ラインハルト様だって見ていたでしょう?」
「見てたけど初心者相手にあんな勝負を持ち掛ける方がどう考えたっておかしいだろ」
「初心者という自覚があるなら勝負に乗る方もどうかと思いますけどね」
「そうなんだよっ」
有坂は俺のことを大切にしてくれてるんじゃないのか。
だけど「男には引けない戦いがある」とかキリッとした顔でサダ兄みたいなことを言われた。
そんな目に見えないプライドなんかより俺を取ってくれ。
「まあでも、確かにアレは少し僕も卑怯でした。とはいえ初心者などと言い訳をしてこない潔さはさすが魔王といったところでしょうか」
「卑怯って…お前分かってやったのかよ」
ジトリと水瀬を睨む。
コイツなんでもハイハイ俺の言う事聞いてる素直な後輩かと思えば、わりと変に考えてるところがある。
そういやいつだったか前にも水瀬と話をしていて、嫌なタイミングで有坂と鉢合わせしたことがあったような。
水瀬は俺の視線に戸惑うことなく、クスリと一つ笑みを零した。
「すみません。本当はただラインハルト様とちゃんと話をしたかっただけなんです」
「話?」
「ゼタスと恋人関係になったと言っていたでしょう」
「…ああ」
そういや準備してる時にそんな話をしたな。
まだなんかあんのか。
「お前そんなに俺の事好きなのかよ?」
「それはもう。持ち前のゲームセンスと腕前に関しては心の底から尊敬していますし、何より僕の一番大好きなゲームの主人公と瓜二つ。ラインハルト様は僕の趣味の全てが詰まった唯一無二の方なんです」
「へー」
つまり俺は水瀬の性癖ドンピシャって事か。
まあ他人から好かれることには慣れてるし、別にそこはどうとも思わない。
「でも俺有坂以外絶対好きにならねーぞ。そもそもゲイでもないし」
「僕もゲイではありませんよ。ですがラインハルト様ほど見目麗しい方でしたら、性別問わず好きになられる方も多いでしょう?」
「確かにそうだな」
昔から男に告白されることは少なくないし、有坂だってなんだかんだ言っても俺だからこそ男でも好きになれたんだろう。
自分の見た目は十分理解してるからすんなり納得していると、水瀬が一歩俺の前に出た。
ぽつりと落ちた街灯の下、不意にギュッと手を握られる。
「僕はラインハルト様を魔の手からお救いしたい。今の貴方はゼタスに魅了され、周りが何も見えなくなっている」
真剣な顔でなんか言われた。
コイツ何言ってんだ。
「アホか。俺が有坂に救われたんだ。有坂に出会うまで俺はずっと毎日つまらなかったし、有坂が来て世界が変わったんだ。今こうやって水瀬と話しているのだって、今日送別会と激励会に呼ばれてめちゃくちゃ楽しかったのだって、全部有坂のおかげなんだ」
言いながら握られた手を離そうとしたが、掴まれた手は外れなかった。
「それは間違っています。今日ラインハルト様が呼ばれたのはラインハルト様がゲー研に何度も足を運んでくださったからです。最初は入らないと言っていたのに、それでもゲー研に入ってくださったこと、僕達と楽しくゲームをしてくれたこと、会長も泣きながら感謝していたでしょう?」
「それだって元々有坂がゲー研に連れてきてくれたからで…」
「交流を築いたのはラインハルト様です。もちろんゼタスのおかげもあるでしょうが、それだけではないはずです」
そう言われて考えてみる。
あれ、言われてみればそこは自分のおかげか?
「…全てがゼタスのおかげだと盲目になっている。そんな執着はいつか必ず身を滅ぼします」
「なんだよ…それ」
「現にゼタスに本当に言いたいことを、今言えなくなっているのではないですか?」
そう言われてドクリと心音が鳴る。
確かに有坂が浮気してた事を絶対に問い詰めてやろうと思ってたのに、本人目の前にしたらなぜか言えなくなってしまった。
有坂に嫌われたら世界の終わりだ。
そう思ったら有坂が不機嫌そうにしていた理由が分からなくても、俺は悪くないのにと納得してなくても、ともかく謝らないとって思った。
「僕はあなたに傷ついてほしくない。ラインハルト様に掛けられた魔法は、この賢者エトワールが解いてみせます」
眼鏡の奥の瞳が柔らかく微笑むと同時、そっと手の甲に口付けされた。
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