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バイトが終わる。
どこから聞きつけたのか水瀬ファンが押しかけて、途中からハルヤンと話してる暇もなかった。
ぐったりしながら更衣室に戻って携帯を見たら、有坂から着信が来ていた。
心臓がバクリと音を立てて、みるみるうちに世界が色付いていく。
水瀬が言った通り、まだなんとかなるかもしれない。
慌てて掛け直したけど、有坂は出てくれない。
こんなことならバイト中も携帯近くに置いておくんだった。
「マッスーお疲れー。いやー水瀬ファンとマッスーファンの板挟みにあって店内が大変なことに――」
「は、ハルヤンっ、有坂が浮気して仮病したら怒られて電話も出ないし精力剤がっ、でも心折れたら電話掛かってきたけどまた出ないっ」
呑気に更衣室に入り込んできたハルヤンにここ数日の事を一気に伝える。
ハルヤンは一度俺の顔を見て首を捻ってから、潔く頷いた。
「そっか。じゃとりあえずありちゃん部活中だろうから学校まで送るわ。帰り道だし」
「頼むっ」
手短に話し終えると上着を着て喫茶店を出る。
外は真っ暗だったが、ハルヤンがいるから怖くない。
「で、今度は何マッスー悪い事したの?」
「なんで俺が悪いの確定なんだよ。俺は何も悪くねえ」
「じゃあありちゃんが悪いの?」
そう言われてグッと押し黙る。
有坂が怒るのは悪いけど、でも有坂にはいつも理由がある。
理不尽に怒ったりしない人なのは、ちゃんと分かってる。
「ありちゃんも正論言ってるんだろうけどさ、いまいちマッスーの扱いが分かってないんだよねー」
「そうなんだよ。俺は怒られるより甘やかされて伸びるタイプなんだ」
「まあその結果が今のマッスーなワケですが」
「なんか文句あんのかよ」
じとりとハルヤンを睨んだが、そういやコイツも俺を甘やかすタイプじゃないな。
冷たい冬の夜風が俺たちの間を通り抜けいく。
少し黙り込んでから、俺は小さく息を吐き出した。
「…俺だって本当は、ちょっとだけ悪い事したかもって思ってる」
「ふ、そっか」
「だからまた怒られても…もしかしたら嫌われても、俺から有坂に話しに行かないといけないんだ」
何より俺が有坂に帰れって言ってしまった。
有坂は俺と話がしたいって言ってたのに、苦しくて逃げてしまった。
呟くようにそう言ったら、不意に頭の上に手が落ちてくる。
そのままくしゃりと撫でられた。
「まあアレよ。とりあえずヤバくなったら身体で落とす方に切り替えればなんとかなるっしょ。ありちゃんむっつりだし」
「おい。人が真面目な話してんのに…」
「わりと現実的だと思うけどな。同じ説教受けるにもイチャイチャしながらのがマッスーも素直に話聞けそうだし」
説教されるの確定かよ、とは思ったがそう言われて考えてみる。
確かに有坂は俺の顔好きだし、見た目を使うのはアリかもしれない。
「素直なのもいいけど、多少はずる賢さも覚えないとね。せっかく顔だけは完璧なんだし」
「なんだよそれっ。頭の良さも完璧だろ」
「ツッコみ所そこ?いや確かに勉強もすごいけどさ」
なんて話をしていたら学校へ辿り着く。
グラウンドに人影は無かったが、部室棟からは煌々とした明かりが見えた。
ハルヤンに礼を言って別れて、野球部の部室へと歩く。
夜まで学校にいることなんてないし、まだ明かりはあるけど昼間とは景色が全然違って見える。
扉の前まで行くと、中からワイワイと野球部員達の声が聞こえてきた。
今すぐ突撃したい気持ちはあるが、部活の邪魔して有坂に怒られても嫌だし終わるまで待つことにする。
しばらく待ったが、野球部の部室からは時たま笑い声が聞こえてくるだけで一向に誰も出てくる気配がない。
今頃有坂は俺の事を忘れて、他の奴らと楽しんでるのか。
こんな真冬の夜に外で誰かを待ち続けるなんて生まれて初めてだ。
寒いのと不安な気持ちとで、身体がカタカタと震えてしまう。
とりあえず忘れないうちに母さんに遅くなる連絡を入れて、その場に蹲る。
少しでも有坂に怒られる要素は無くしておきたい。
どれくらい待っただろう。
恐らく5時間くらい――と思ったら時計は10分しか進んでなかったが、不意にガチャリと音がして部室の扉が開いた。
野球部メンバーがぞろぞろと出てきて、ハッとして立ち上がる。
「あれ?王子だ」
「はー…夜でも輝いて見える。なんて麗しいんだ」
「うわその台詞似合わねー」
俺を目にしてぎゃははと笑いながらイカツイ坊主頭の野球部員達が通り過ぎていく。
有坂の姿はまだ見えない。
早く会いたい。
心臓がドキドキして、まだ姿が見えないのに顔が熱くなっていく。
会ってたくさん話してちゃんと謝って、有坂の話も聞こう。
それでもしどうしようもなかったら、ハルヤンが言ってた通り身体で落とそう。
エロいことされてもなんでもいいから、ともかく俺には有坂がいないとダメなんだ。
そう思って部室の前で待っていたが、そこから出てきた予想外の人物に俺は目を見開いた。
「――あれ、結城君?」
野球部に似つかわしくない、高い声。
俺の目の前に現れたのは朝宮さんで、なんかファイルみたいなのを抱えて野球部の部室から出てきた。
いつも降ろしているロングの髪はポニーテールに結われていて、見るからに野球部のマネージャーオーラが出まくっている。
いつのまにそんなことになってたんだ。
ラスボス級の風格に圧倒されていると、奥からようやく有坂が顔を出した。
俺の顔を見ると、息を飲んで駆け寄ってくる。
「結城、なぜここにいるんだ」
「あ…有坂を待ってて――」
言いながら動揺して声が揺らいでいく。
謝ろうと思ってたのに、一気に余計な考えが頭の中を支配していく。
なんで朝宮さんがいるんだ。
これから朝宮さんを送るところだったのか。
もしかして毎日部活が終わった後送ってたのか。
予期してなかった光景に頭が真っ白になっていく。
水瀬は俺を勇者だと言っていた。
勇気を持って自ら魔王の元へ足を踏み込んでこそ、勇者だと。
それはその通りだが、アイツはやっぱり分かってない。
ゲームの中の勇者はいつもラスボス前は必ずパーティを組んでいて、ソロで魔王になんか挑まない。
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