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「いい機会なんで紹介させてください。こちら僕の親友なんです。今日は友情出演で来てもらっていて――」
なんか紹介されたが、友達どころか親友までいるらしい。
俳優が親友とか、いつもの二次元オタクな雰囲気なんて全く感じさせない華やかな交友関係だ。
仕方なく紹介されてやってたら、水瀬のマネージャーらしき人物が呼びに来た。
どうやら撮影のチェックが無事終了したらしい。
気付けばハルヤンは颯爽とアイドルを口説きにいってるし、微妙な気持ちでその様子をじとっと見つめる。
俺の有坂相談はどうしてくれるんだ。
「ラインハルト様、今日は有難うございました」
「おー、別になんもしてねーけどな」
「ふふ、ラインハルト様のことずっと自慢したかったんです。とても綺麗な先輩がいるって前から話をしていたので」
コッソリ俺に話しながら、嬉しそうに水瀬が微笑む。
まあ俺も好きな人の事はたくさん話したいし、自慢しまくりたいから気持ちは分かる。
でももしかしたらそう思ってるのは俺だけで、有坂はそんな風に俺の事を思ってくれたりはしないのかもしれない。
心がボロボロになってるせいで、どうしてもマイナスに考えてしまう。
こんなにイケメンで周りにちやほやされてたって、有坂が見てくれないんじゃ意味がない気がしてくる。
「…まだ元気はでませんか?」
俺マスターの水瀬がすぐに様子に気付いたが、だからと言って俺がコイツに相談することなんてない。
「放っとけ。スタッフ呼んでんぞ」
「あっ、はい」
水瀬の後ろで急かすように手を上げてる奴に気付いて促してやる。
芸能人はスケジュールが詰まってるらしい。
だがすぐに行くのかと思いきや、水瀬はじっと俺の顔を見つめた。
いつもの俺の知ってる水瀬とはやっぱり違って、大衆が大喜びしそうなモデル兼俳優がそこにいる。
店内に入ってきた客がキャッと俺達に黄色い声をあげて、水瀬は一つ息を吐き出してから口を開いた。
「…ラインハルト様、僕はゼタスとは意見が違いますが、彼も自分なりにラインハルト様を思っているからこそ昨日は怒ったんだと思います」
「え?」
なんだいきなり。
予想外の水瀬の言葉に驚く。
「不誠実な人だと思っていましたが、昨日見た限りでは少なくとも貴方を適当に考えているようには見えなかった」
「…そ、そんなの分かってる。有坂はいつも本気なんだ。本気だから、怒る時もめちゃくちゃ怖いし――」
鋭く向けられた視線に身体が竦んだ。
俺にあんな顔を向けるのは、この世に有坂だけだ。
「怒ると言うことは、彼もまたそれだけラインハルト様に伝えたいことがあるんですね」
「…伝えたいこと?」
「はい。ゼタスもラインハルト様のように、伝えたいけど伝えられないもどかしさを抱えているからこそ怒るのだと思います」
水瀬の言葉に俯く。
確かに有坂は俺に話をしようと、部屋の前で何度も言っていた。
だけどこれ以上怒られるのが嫌で、有坂の言葉を聞くことが出来なかった。
「…で、でももう嫌われたかもしれないし――」
あんなに勇気をだして電話を掛けたのに、有坂は出てくれなかった。
それってつまり俺の事はもういらないってことだ。
もう話をする気がないってことだ。
思い出したら心臓が苦しくなって、ギュッと胸を掴む。
水瀬は握りしめた俺の拳に、そっと自分の手を伸ばした。
「ですがラインハルト様。いつの時代も勇者はご自分の足で魔王へと出向いていくものです。直接対峙してお話してみなくては、本心はいつまでも分かりません」
水瀬の言葉にハッとしてその顔を見上げる。
コイツひょっとして俺を勇気づけようとしてくれてるのか。
有坂の敵じゃなかったか。
「…お前俺の事好きじゃなかったのかよ」
「もちろん大好きですよ」
「魔法を解くとか言って邪魔しようとしてなかったか」
「僕も男です。ラインハルト様が隙を見せるようなことがあれば、いつでも付け込む準備は出来ていますよ」
「じゃあなんで――」
言いかけると、水瀬はスッと長い指先を俺へと伸ばす。
人差し指が言葉を遮るように俺の唇へ触れた。
「お忘れですか?ラインハルト様」
形の良い唇が綺麗に弧を描く。
アサ兄が知ったら騒ぎ立てそうなキラキラした表情で、水瀬は綺麗に微笑んで見せた。
「僕は賢者エトワール。賢者とは勇者様の傷を癒し、サポートする者。決してラインハルト様の敵ではありません」
そう。
水瀬は俺の後輩であり、ゲーム内では賢者であり、いつだって俺を慕って味方してくれる良き理解者。
「あなたの傷つく姿は見たくないと言ったでしょう?」
そう言って表情を綻ばせて見せた姿は、やっぱりいつものゲームオタクの水瀬だった。
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