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「何か誤解をしているのか?浮気などしていない」
有坂は俺の言葉に一度目を瞬かせてから、のうのうとそんな言葉を言ってのける。
しらばっくれようと俺の目は誤魔化せない。
「いつも話してるの見てるし、それに毎日部活終わった後に朝宮さんを送ったりしてるんじゃねーのか」
「していない。…なんだ、朝宮とのことを誤解しているのか?」
誤解じゃない。
俺の目にはばっちり浮気現場が映ってる。
「朝宮は確かに友人だが、結城が誤解するような間柄ではない。彼女は野球部にとても親切にしてくれていて、俺だけでなく部員のみんなが助けられているんだ」
「親切って…なんだよ」
「差し入れを作ってきてくれたり、テスト前は野球部の勉強を見てくれてもいる。最近ではマネージャー業務もこなしてくれているな」
そんなに関わりまくってたのかよ。
席も有坂の隣なのに、部活でもずっと一緒じゃねーか。
「お、俺だって有坂といたいのに、朝宮さんの方が一緒にいるなんて嫌だ」
「…結城は前に人に勉強を教えるのは嫌だと言っていただろう?人がやりたがらないような事を彼女は率先してやってくれているんだ。悪い事は言わないでくれ」
俺だって有坂が欲しいなら差し入れも作るし、実際に弁当だって毎日作ってる。
だけど他の奴らにまで何か作りたくはないし、勉強も有坂以外にはもう教えたくない。
この俺が有坂以外の奴の面倒を見るとか、絶対にありえない。
「彼女自身、本来野球が好きなんだと言っていた。ただ自分は女だから野球部に足を踏み入れづらかったと。俺と関わったのをきっかけにマネージャー業務をしてくれるようになったんだ」
「そ、そんなの有坂の事が好きだからじゃ…」
「それは考え過ぎだ。なにより朝宮は俺に恋人がいることを知っている」
「――え?」
有坂の言葉に目を丸くする。
俺の様子を見て、安心させるように目の前の瞳が優しく細められる。
「さすがに男同士だからな。相手が結城だとまでは言っていないが、俺の事情を組みとり相手に悪いからと、帰りも二人きりにならないよう気遣ってくれている」
「…それって」
「結城が心配するような事は何一つないということだ」
有坂はそう言ったが、本当に朝宮さんは有坂の事が好きじゃないのか。
人にモテまくる俺だから分かるが、あの目は絶対に恋してたはずだ。
だけど有坂に恋人がいる事を知ってるなら、なんで我慢して近くにいるんだ。
「で、でも…楽しそうに話してただろ」
授業中もイチャイチャしてるのを俺は知ってる。
さっきだって俺の知らない部活の話をしてた。
「そうだったか?結城が心配するほど雑談をした記憶もないが…」
有坂はそう言って考えるように顎に手を当てたが、俺の目には一言挨拶しただけだってイチャイチャしたように見えるんだよ。
思い出すと沸々と気持ちが込み上げていく。
やっぱり俺には我慢できない。
「俺は有坂といっぱい話せないのにそんなの嫌だ。もう俺以外の誰とも一生話すなっ」
有坂は俺だけのもので、俺だけを見ていて欲しい。
もうどこにも行かないでずっと俺と一緒にいて欲しい。
こんなに俺が必死に頼んでるんだから、恋人なら聞いてくれたっていいはずだ。
俺はこんなに一途で健気で有坂だけなんだから、有坂も俺だけになってほしい。
衝動のまま喚いたが、有坂の視線は少しも揺らがない。
ただ淡々と、いつもと同じ表情で口を開く。
「それは出来ない」
ばっさり言われた。
さっき俺の言うことを何でも聞いてくれるって言ったのは一体なんだったんだ。
「会話を持ち掛けられれば相応に返す。これは人としての礼儀であり、この先も無視などすることは出来ない」
「で、でも俺は嫌だ…っ」
「これは色恋とは別の常識的な話だ。結城も先ほどのように知人の挨拶を無視するなどという行動は見直した方がいい」
逆に説教までされた。
こんなのとばっちりだ。
「で、でも話したら楽しいって思って俺の事忘れてソイツの事考えるだろ。それは浮気じゃないのか」
負けじと返したら、有坂は俺の言葉に少し考える。
「…なるほど。確かに会話中まで結城を想い続けることは出来ないし、他の者と会話をすれば楽しいと感じることはもちろんある」
あっさりと認められて、ギュっと胸が詰まる。
それを俺は浮気だって言ってるんだ。
俺のことを忘れて楽しんだ時点で、もう全部浮気だ。
「…だが結城、お前のようにこうも胸の高鳴りを覚える者は他に一人もいない。こんな気持ちになるのは結城だけだ」
「俺だけ…?」
「ああ。お前だけにしかこんな感情は抱かない。それで納得しては貰えないだろうか」
そう言って有坂は俺の機嫌を伺うように目を覗き込む。
有坂の視線にトクトクと心臓が音を立てていく。
見つめられると顔が熱くなって、なんで怒っていたのか分からなくなってくる。
まだ納得してないはずなのに、欲しい言葉を貰えたみたいな気持ちになってくる。
「…じゃ、じゃあずっと俺だけって約束してくれるか?」
「ああ、約束する。ずっと結城だけだ」
「本当か?」
「本当だ」
「ふ、ふーん…」
鼻を鳴らしながら考えてみる。
納得はしてないけど、それでも有坂とこのまま言い合いを続けても勝てる気はしない。
なんなら説教がまた来るまである。
本当は有坂が俺以外と二度と話さないって言葉が欲しかったけど、まあ出来ないんじゃ仕方ない。
「じゃあ…それでいい」
仕方なく頷く。
有坂が俺だけって言ってくれたから、今日のところは許してやることにする。
「なら結城も約束してくれるか」
「え?」
聞き返したら、有坂の手がそっと俺の胸に触れた。
真っ直ぐに見返されて、心臓がバクリと跳ねる。
「俺以外にドキドキするのは禁止だ」
どことなく試すように細められた目に、カッと顔が熱くなる。
俺が他の奴にドキドキするとかありえない。
こんな気持ちがある事を知ったのは有坂に会ったからで、それが最初で最後なのはもう分かり切ってる。
「っあ、有坂以外にしない。絶対にしない」
勢いよく返事をしたら、嬉しそうに目の前の黒い瞳が綻ぶ。
やっと見ることが出来た有坂の笑顔に、自然と俺も表情を緩ませていた。
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