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「結城、凄かったな。バスケでも目覚ましい活躍を見せていた」
「見てたのか?…まー俺がちょっとやる気出せばあれくらいフツーだろ」
さっきは突き放されたと思ったのに、昼休みになったら有坂はいつも通り俺を迎えにきてくれた。
どうやら試合も見ていたらしく、弁当を食いながら褒めてくれる。
「結城はバスケも経験者なのか?何をしても本当に器用で、毎回感心させられる」
「ちょっとやったことあるくらいだけどな」
フフンと鼻を鳴らして返すと「少しの経験であれだけ出来るとは凄い」とまた褒められた。
自然と表情が緩んで、頑張って良かったと実感する。
ちなみにバスケは一時バスケ漫画にハマって兄貴と遊んでたら、母さんが勝手にプロ選手呼んできてしばらく教えてもらったことがある程度だ。
初心者と経験者が混ざってやる球技大会では、ちょうどいいくらいの実力だろ。
「俺がいなくとも、ちゃんと周りの者と協力していたな」
そう言って有坂は優しげに目を細める。
協力はしたけど、でも有坂がいた方が絶対楽しかった。
なんとなくそこは頷きたくなくて視線を逸らすと、クスリと有坂が息を漏らす。
笑いごとじゃねーんだよ。
「…あ、有坂は俺と一緒じゃなくてつまらなくないのかよ」
「もちろん結城と時間を共に過ごせたら嬉しい」
当たり前のような言葉に、じわりと胸が熱くなる。
やっぱり恋人同士なんだから、ずっと一緒にいないといけないに決まってる。
「だが結城。いくら恋人とはいえ、全ての時間を共有するというのは難しい」
「そんなの分かってる。だから有坂が部活の時はめちゃくちゃ我慢してるだろ。今日だって一緒の種目やりたかったのに我慢したし…」
「…ああ、ええと――いや、そうだな」
不意に有坂が言い淀む。
珍しく何か考えるように言葉を詰まらせるから、戸惑ってしまう。
なんだ。
何かおかしい事俺言ったか。
この間から有坂は、時たま言葉を濁しては考え込むような素振りを見せる。
その度にひやりと背筋が冷たくなって、変に焦るような、モヤモヤした気持ちになる。
「な、なんだよ。何かあるのか。あ、そうだ。もしかして悩みとか――」
「…いや、いつも沢山我慢をさせてしまってすまないと思っている」
有坂はそう言って俺の髪を撫でる。
その手はいつも通り熱くて優しいのに、覚えてしまった不安は拭えない。
有坂は、何かを隠してる。
俺に言いたいことを言えないままになっている。
絶対に何かを悩んでいるのに、それを俺に話してはくれない。
「――は?なにその彼氏の行動にピンときちゃった女の勘みたいな言い方」
「だっていつも堂々としてる奴が変に戸惑ってたらおかしいだろ。ま、まさかまた浮気とか…」
「いや『また』とか言ってるけど、ありちゃんに限って浮気とか一度もないでしょ」
昼食後、体育館でハルヤンに有坂相談しながら、コート内でバレーしている有坂を見つめる。
アタックはいまいちだが、背が高いおかげかブロックはよく決まる。
真顔で中央に聳え立つ壁は中々威圧感があって、相手どころか味方もやりづらそうだ。
「もうちょっとありちゃんのこと信じてあげれば?浮気って誰よ。朝宮さん?」
「…そういや朝宮さんちゃっかり野球部のマネージャー始めてたな」
「うっわ、本気じゃん」
ジトリとハルヤンを睨むと、素知らぬ顔で目を逸らされた。
余計に不安になるようなこと言うんじゃねえ。
「まあさ、ありちゃんが本当に悩みがあるなら女関係じゃなさそうだけど。他に好きな人が出来たら浮気せずにとっととマッスーと別れるでしょ」
「俺より好きな奴なんか有坂に出来るわけないだろ」
「なにその謎の自信」
常識的に考えても俺より魅力的な奴が現れるとは思えない。
ちゃんと分かっているのに、それでも無性に不安になる。
コートを挟んだ反対側でキャーキャー言いながら有坂を応援してる朝宮さんが目に入って、余計にイラついてくる。
「ありちゃんの悩みねー。なんだろ、マッスーがべったりしすぎてウザくなったとか?」
「――っ」
一番言われたくない言葉を言われた。
思わずフリーズしてハルヤンを見つめると、さも楽しそうにその目が歪む。
コイツ完全に人の反応楽しみ始めたな。
「もういい。お前には一生相談しねえ」
「えー、マッスーが相談してくれないと俺も稼ぎづらいからなー」
「相談しなくても稼いでただろ。つーか俺で稼ごうとするなっ」
「ふは、冗談だって。ほら、メンヘラ大好きなナデナデしてあげるから機嫌直し――」
ハルヤンが手を伸ばしたと同時、バンッとけたたましい音を立てて俺とハルヤンの間の壁にバレーボールが直撃した。
同時にピーっと鳴る試合終了の音。
どうやら有坂の打ったスーパーアタックで試合が決まったらしいが、どこ狙ってんだ危ねーな。
「あー…うん、まあとりあえず愛情に関しては心配ないんじゃないかな」
そう言ってハルヤンはヒクリと頬を引き攣らせた。
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