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修学旅行は三泊四日の北海道旅行。
早朝から学校に集合し、バスで空港へ、そこから飛行機で現地へ向かう。
「うわー、飛行機乗るの初めて」
「緊張するよね。検査引っかかったらどうしよー」
クラスメイトが口々にそう言って騒いでるが、飛行機乗ったことない奴がこの世にいるとか驚きだ。
有坂に出会うまでは長期休みの度に海外へ遊びに行ってたから、それくらい当たり前だと思ってた。
「えっ、有坂も乗ったことないのか?」
「ああ。遊園地のアトラクションのようにあまり急上昇、急降下はしないで貰えると助かるのだが」
「ぷ、まあ揺れたりするけど安全だから心配しなくて大丈夫だぞ」
そういや有坂って見た目に似合わず絶叫系苦手なんだっけ。
思わず可笑しくなって笑うと、有坂もどこかバツが悪そうに首を擦る。
「昨夜はちゃんと睡眠を取れたか?」
「んー、まあまあ眠れたかな」
「そうか。明日からは自由行動になってしまうが、今日は全体行動だから一緒に見て回ろう」
「――うんっ」
まさか有坂からそう言ってもらえるとは思わなかった。
全体行動の時に一緒に回れるのは、同じクラスの特権だ。
初日の朝からもう楽しい。
というか自由行動の班が別々になって絶望を感じてたけど、よく考えたら初日と最終日は全体行動だ。
ホテルに帰れば有坂と一緒だし、別にそこまで気にすることじゃなかったのかもしれない。
とはいえずっと有坂の側にいられるわけじゃなく、クラス委員だから人数確認したり担任に報告したりとやらなければいけない事が多い。
しかも飛行機の座席も教師陣の近くでクラス委員同士座らないといけないし、有坂とまたしても離ればなれだ。
去年有坂の実家に行った時みたいに、行き帰りを二人でワイワイ話しながら行くのは無理そうだ。
担任の年上彼女が可愛いだとかガチでどうでもいい自慢話を聞かされながら、飛行機は目的地へ向かって行く。
数時間のフライト後、ようやく現地へと到着した。
飛行機から解放されると、そこはもういつもの景色とは違っていた。
まず感じたのは気温の違い。
梅雨時期で蒸している地元と違って、この時期なのにちょっと肌寒い。
さらに空港からバスに乗り換えて外の景色を眺めると、めちゃくちゃ長閑で広大な自然が広がっていた。
バスの中で口々に騒ぎ始めるクラスメイトにつられて、ドキドキとテンションが上がっていく。
そんなわけでようやく一日目のスケジュールが始まるが、まずは昼食。
その後はこの地の伝統民族や文化について博物館で学んだり、湖で集合写真を撮ったりといったクラスでの行動だ。
バスを降りて無事点呼が終わったら、すぐに有坂のところへ向かう。
こういう学校行事のイベントで、誰かと一緒に回れるなんて夢みたいだ。
今まではワイワイ騒いでる奴らが周りにいる中、ずっと一人で回ってたから苦痛でしかなかった。
もう今日は何が何でも絶対に有坂から離れない。
昼食も対面じゃなくて隣に座ってご飯を食べて、後片付けするのも、その後移動するのも、歴史を学ぶ講義を聞く席、集合写真の位置まで全部一緒だ。
「…さすがにこの場であまり近くにいられると、やりづらいものがあるな」
「えっ?気にしなくていいぞ」
もちろんトイレの中も一緒だ。
連れションを終えて博物館内を二人で見て回る。
有坂と一緒というだけで見る物全てが輝いて見えて、どこへ行くにも楽しくて堪らない。
「結城は家族で旅行によく行くと言っていたが、ここに来るのは初めてか?」
「うん。国内旅行は南の方が多いかな。後は海外ばっかり」
「そうか。なら共に新しい事をたくさん学ぼう」
ちゃんと勉強しにきている辺り、さすが有坂だ。
修学旅行なんて大抵お遊び目的で来てる奴が多いと思うが、有坂は博物館内でも真面目に展示物の説明を読んで回るタイプだ。
なんなら修学旅行生よりどこぞの観光客の爺さんと話が合って、歴史について盛り上がり始めている。
相変わらず爺さんキラーだ。
「…うわ、すっげー」
思わず声が漏れた。
博物館の後は道内のとある湖に来たが、木々に囲まれた自然の中に真っ青な池が佇んでいた。
鮮やかなブルーと思えば陽光を受けてキラキラとエメラルドにも色を変え、有坂と二人でハッとして立ち尽くしてしまう。
「...これは素晴らしいな。まるで結城の瞳の色のようだ」
「な…っ、なにいきなり真顔でクサイ事言ってんだよ」
「素直な感想を述べただけだ。とても神秘的な美しさを放っている」
今時クサイ台詞なんてネタでしか使わないのに、真顔で当たり前のように言ってのける辺りさすが昭和男子だ。
ハルヤンが聞いたら大爆笑されること間違いなしと言うか、既に後ろにいた生徒に笑われている。
有坂のこと笑ってんじゃねーぞ。
なんだかむず痒い感覚になりながらも、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
その後もご当地アイスクリームを食べたり、集合写真やガイドの案内を聞いているうちに徐々に陽が沈み始める。
頃合を見て集合が掛かり、各々賑やかに回っていたクラスメイト達が同じ場所へと集まってくる。
もう一日目が終了だとか、早すぎる。
有坂となら無限に観光が出来る。
そしてここからは、バスに乗って宿泊するホテルへ向かう。
そう。めちゃくちゃ楽しみで待ち望んでいた、修学旅行の夜の始まりだ。
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