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「…うー」
言葉にならない声が有坂の部屋に響く。
ありえない。
マジでありえない。
あまりにものショックに体育座りになって、ソファの上で半裸で俺は拗ねていた。
ちなみに有坂はびしょ濡れになった俺の服とベッドの処理に追われている。
漏らした。
ありえない。
高校生なのに。
これは俺の悩みその12に入れて、一生黒歴史にして心の奥底にしまっておくことにする。絶対にだ。
「結城、すまなかった。少しやりすぎた」
「やだって何度も言ったのに…」
「何を漏らそうとお前は可愛い」
「も、漏らしたって言うなっ」
恥ずかしさがいっぱいで何を言われても今は慰めにならない。
眠気も何もかも全部吹き飛んで、ただひたすら恥ずかしさで耳まで熱い。
「それにあれは漏らしたのではなく行為中の生理現象であって、俺はむしろ嬉しいのだが…」
「へ、変態っ」
「あんな結城を目にして平常心でいろという方が無理な話だ」
清々しいまでにきっぱりと変態発言を受け入れる有坂は、やっぱり猛者だ。
一通り終えると有坂は俺の元へ戻ってきて、いつにない積極さで俺の両肩をガシッと掴む。
「それで結城、まだ俺は全く満足できていないのだが続きを――」
「む、無理っ。もう今日は嫌だっ」
きっぱりとそう言ったら有坂が珍しく雷でも食らったように衝撃を受けている。
まさかこれをきっかけに実家に帰ったりとかしないよな。
ちゃんとこっちの大学に通うことにしたってさっき言ったよな。
夏休みに一生こっちにいる許可取ってくるって言ったよな。
というかテスト勉強はどこ行ったんだ。
有坂はしばらくガクリと膝をついていたが、少しして俺に向き合う。
というか過去最高に落ち込んでないか。
「…まあいい。お前の気持ちを少しでも変えられたのなら良しとするか」
そう言って優しげに目を細める。
でもやっぱかなり残念そうだ。
「…夏休み。俺も一緒に行くからな」
「なに、それはダメだ。仮にも受験生なのに働かせるわけにはいかない」
「じゃあ働かないけど行くからな」
「いやそう言う問題ではなくてな…」
有坂はまた困ったように俺になんか説明をしていたが、何を言われたって俺は今年も有坂の実家に行く。
春休みの時みたいに置き去りにされるのだけは、絶対に嫌だ。
7月の期末テストが終わりを告げる。
テスト期間中に行われた野球部の試合はまさかの二回戦、そして奇跡の三回戦を突破し、なんと四回戦へ進出を決めていた。
毎年一回戦負けだった弱小野球部が四回戦進出ともなると周りの見方も変わってきて、ここを勝てばベスト16入りという驚異の事実に周囲がざわつき始める。
まさかあるのか…?なんて全く野球部に見向きもしなかった連中も興味を持ち始めていたが、さすがに現実は厳しく四回戦目であっさりと大敗してしまった。
それでも大健闘ということで全校集会では教頭がニコニコと取り上げていたし、担任も毎日朝のHRでその話をしていて鬱陶しい。
有坂はというと安定の無表情だったが、でもなんだかちょっと凹んでる気もした。
それでも俺的にはこれで有坂は部活から解放されたし、ということは朝宮さんとももうそんなに関わりはないし、それにこれから夏休みも始まるってことで気分が良い。
もちろん有坂の大学についてはまだ確定じゃないけど、でも有坂が最近はずっと一緒にいてくれるからとりあえず安心してる。
「結城、帰ろう」
「――うんっ」
表情を緩めて席を立ちあがる。
放課後になったら毎日有坂と一緒に帰れるのが、本当に嬉しい。
それに今はお互いに共通の目的があって、最近はずっと二人で大学選びをしてる。
資料室でアレコレ話し合ったり、学校帰りに実際見に行ってみたりしてめちゃくちゃ楽しい。
「本来なら結城ほどの学力があれば、やはり一流大学を目指すべきだと思うのだが…」
「もうその話は聞き飽きた。だってそこに行っても有坂のやりたいことは学べないだろ」
「いや俺ではなく、結城の話だ」
「俺は有坂と一緒じゃないと嫌だって何度も言ってるだろ」
「そういう問題ではない。せっかく今まで積み重ねてきたものがあるのだから――」
この話をする度に有坂は小難しい顔をしながら小難しい話をクドクドとする。
やっぱり突き放そうとしてるのかと不安になるけど、それでも実家に帰られる可能性があったこの前よりは全然マシだ。
「あら、有坂くん。今日もマスを送ってくれてありがとうね。大学も一緒に見に行ってくれてるんでしょ?」
「いえ、とんでもありません。自分のためでもありますので」
それと今は毎日有坂は俺の家で夕飯を食っている。
有坂がここ数日俺を送ってくれてるから、母さんが有坂を気遣ってそう提案した。
いつも通り有坂は遠慮してたが、俺が絶対そうしろって縋ったら了承してくれた。
「母さん、有坂が夏休みに旅館に連れてってくれないんだ。別に行ってもいいだろ」
「ゆ、結城。こちらとしても昨年のように受験生を働かせるわけにはいかないんだ。女将も間違いなくそれは許してくれないだろう」
「だとしても俺は絶対に行きたい。働かなくていいから絶対に行きたい」
「働かない者に長屋を貸すわけにはいかない」
「有坂の部屋でいーだろ」
「そ、そういうわけには…」
そしてこの問題はまだ続いている。
俺は何が何でも絶対に有坂の実家に行きたいというか、有坂と離れたくない。
だけど有坂はダメだって言って断固として譲ってくれない。
このままだったらもうコッソリついて行くまである。
夕飯を食べながら有坂と終わることのない言い合いしてたら、母さんが不意にポンと手を叩く。
「良い事考えたわ。毎年夏はイギリスに行っていたけど、今年の夏は家族みんなで有坂旅館に遊びにいきましょう。有坂くん、一番高いお部屋は空いているかしら?」
俺たちの言い争いがパタリと止まった。
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