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「結城、待たせてすまなかった」
「――有坂っ」
色々話を聞いていたら、有坂が進路指導室に顔を出す。
一気にテンションが上がって、担任の話そっちのけで有坂に駆け寄る。
有坂が頭を下げるから仕方なく俺も一緒に下げて、ようやく二人で帰宅することにした。
「監督と何を話していたんだ?」
「うん。ちょっと進路の話してて――」
「進路?」
有坂が首を傾げたからさっきの話をしようと思ったけど、ふと押し留まる。
せっかく有坂が大学を決めてくれたのに、余計な事言ってまた心配させたら嫌だ。
有坂はいつだって俺に譲ってくれるし、もうこれ以上有坂のためにならないことはしたくない。
それよりもっと他に話したいことがある。
「――なに、朝宮が?」
「うん。なんか俺に怒ってるっぽくてさ、今日の朝不機嫌な態度取られたんだ」
「何か心当たりはないのか」
「俺が悪い事するわけないだろ」
有坂にさっそくチクってやった。
朝宮さんとは夏祭り以来だし、別に何か悪いことした記憶なんてない。
むしろ有坂に告白したいから二人にしてくれって言われて、この俺があろうことか二人きりにさせてやった。
まあ朝宮さんの言葉にショック受けて帰っただけだけど、それでも二人にしてやったんだから感謝されてもいいくらいだ。
告白出来なかったとかは俺のせいじゃないし、むしろ田舎女の件でも朝宮さんは有坂にチクったし、俺の方が怒っていいとさえ思う。
「朝宮は理由もなく怒る人間ではない。結城にも心当たりがないのなら、何かすれ違っているのかもしれないな」
「…別にそれならそれでいいけど」
「それはよくない。友人なのだから話し合って仲直りをするべきだ」
友人って有坂は言うけど、正直それはちょっと違う気がする。
ただ朝宮さんは唯一普通に話せる女子ってだけだ。
有坂のことが好きな時点で、友達にはなれない。
「…ハルヤンとも喧嘩したし」
「なに?前にも喧嘩していただろう」
「だってハルヤンが俺の事無視するんだ」
「何か心当たりはないのか」
さっきと同じこと言われた。
つーかなんでさっきから俺が何かした、から入るんだ。
確かに有坂にたくさん間違ったことしたから、信用がないのかもしれないけど。
思わず押し黙ってむすっとすると、有坂が慌てたよう俺の髪に手を伸ばす。
「…いや、別に結城が悪いことをしたと思っているわけじゃない。ただお前は誤解されやすい性格だから心配なだけだ。そんな顔をしないでくれ」
優しく髪を撫でてそう言ってくれたけど、もしかして宥めればいいと思ってるんじゃねーだろうな。
だけど大きな手のひらに触れられると、心がじわりと緩んでしまう。
めちゃくちゃ甘えたくなって有坂の腕にくっつくと、鋭い瞳が柔らかくなる。
「今月末には文化祭もあるし、気まずいままでは嫌だろう。気後れしてしまう気持ちは分かるが、自分から歩み寄らなくては何も変わらない」
そう言われて思い出したけど、もうすぐ文化祭の時期か。
すっかり忘れてたけど、去年は朝宮さんと演劇やったんだっけ。
でも有坂に色々されて台詞を忘れて大変な目にもあった。
だけど今年も有坂と一緒の文化祭を過ごせる。
めちゃくちゃ嬉しいけど、でもその前に朝宮さんは置いといても、やっぱりハルヤンとは前みたいに戻りたい。
今更詐欺師だとかなんだとか、っていう理由付けなんてアイツにはいらない。
ただ今回の喧嘩は前みたいに勘違いから来たものじゃない。
ちゃんとなんで喧嘩になったのか、理由が分からないときっとダメなんだ。
夏休み後の気怠い雰囲気を引き締めるように、あっという間に校内は文化祭モードに切り替わっていく。
有坂がいてくれる余裕もあって、今年は演劇の主役だろうと喫茶店の看板息子だろうとバンドのセンターボーカルだろうと、何でもやる気はある。
高校最後の文化祭だ。
きっと楽しくて、いい思い出になる。
「――えっ、展示?」
そして文化祭の取り決めを行うHR。
満場一致で決まったこの世で一番つまらない催し物に愕然とする。
よりにもよって俺の良さが全く生かせないただの展示とか。
「まあ受験シーズンだしなぁ。文化祭に時間使いたくない気持ちも分かるけど、先生としてももーちょい皆にやる気出して欲しいけどな」
このクラスでがっかりしてるのはきっと俺と担任だけかもしれない。
なんでも受験勉強で忙しいから、文化祭には時間を割きたくないって言う奴らが大半らしい。
「結城君いるから演劇とかやりたいけど…でも時間ないよね」
「喫茶店は?でも衣装とか仕入れ担当の負担が大きいからきついかぁ…」
一応話を聞いてみると皆やる気がないわけじゃないが、周りに気を遣っていてめちゃくちゃ消極的だ。
まあ俺も大学は決まってるけど、なりたいものは決まってない。
わざわざ二年の進路説明会に参加しろって事にもなってるし、時間が欲しい気持ちは分かる。
――だけど。
「俺は展示じゃなく別の事をやりたい。受験はあるけど高校最後の文化祭だし、クラスみんなで最後に何かを作り上げたら絶対に楽しいと思う」
主に俺が。
有坂と一緒にいるために。
そんな理由だったけどいつになく堂々と言ってみたら、クラスメイトの目つきがどこか色を変えて光り輝いた。
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