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「結城、そろそろ勉強しなくては」
「んー…もすこし」
こんなに有坂にドロドロにされて、今更勉強なんか出来ない。
両手を首に回してじっとその目を見つめると、煽られたように有坂も再び唇を寄せる。
こんなのは、絶対に有坂のためにならない。
分かっているけど、一度甘やかされると堪らなくなって止まらない。
お互いにダメだ、と思ってるから焦ったように唇を重ねては、余計に溺れていく。
結局母さんから夕飯が出来たって声が届くまで、歯止めが利かなくなったようにお互いを求めあってしまった。
「今日はすまなかった。勉強の邪魔をしてしまったな」
「…あ、いや。それは俺が――」
玄関まで有坂を送りに出てきていたが、言いながらどこか照れ臭くなって俯く。
本当はダメなのに、止まらなかった。
有坂に触られると堪らなくなって、いつも頭が真っ白になる。
「…お前がやる気を出しているときに、俺が邪魔をしてしまってはいけないな」
「えっ?」
「いや…なんでもない。また明日」
有坂は一度言葉を濁らせたが、すぐに気を取り直したようにそう言って背を向けた。
まだ帰らないで欲しい、寂しい、って前までの俺ならその背中に飛びつくけど、でもここはぐっと我慢をする。
見えなくなるまで見送りたかったけど、寂しくて我慢できなくなりそうだからすぐに家に入った。
パタンと玄関の扉を閉めて、一つ息を吐きだす。
また勉強の邪魔してしまった。
最初に手を出したのは有坂だけど、でもずるずると甘えて引き延ばしたのは俺だ。
有坂の存在は全部俺のやる気の元だけど、でも今のところ有坂にとっての俺は邪魔者にしかなってない。
こんなんじゃだめだ。
もっと、もっと有坂のためになるような自分になりたい。
日に日に校内は文化祭モードに彩られ、生徒達も活気づいていく。
クラスの作業に同好会の作業、それと受験勉強とで毎日結構忙しい。
それと進路に関してもあまりゆっくり考えてる暇はないから、いい加減決めないといけない。
『医学部行かないと医者にはなれないぞ』
「…え、そうなんですか?」
『国家資格だからな。自分で勉強していくら知識を取り入れても、それ以前に医学部を修了している必要がある』
「そっか…」
『なんで。お前頭も相当いいらしいし、結城家だから金はあんだろ。医学部に行きたくない理由でもあんのか?』
ここ最近、この間名刺をもらった担任の友達、日比谷さんに電話して進路の事を相談している。
わりと話しやすいし、サダ兄の友達ってこともあって大分心を許して話してる。
別に金の心配なんかしてない。
金はあるから一生何もしなくていいって母さんには言われてるくらいだ。
ただ、大学は有坂と一緒がいい。
思わずもごもごと口籠っていると、ふと視界に有坂が入った。
「結城、何かあったのか」
「あっ、有坂。ちょっと待って」
放課後に廊下で電話を掛けていたが、結構長電話していたから有坂が心配してくれたらしい。
文化祭の作業は有坂に任せっぱなしだし、そろそろ戻らないとマズい。
『あ、文化祭なんだっけ?学生は楽しそうでいいよなー』
「日比谷さん遊びに来ます?そういやオンラインで曲売ってるって言ってたから検索して聞きましたけど、歌超下手クソですね」
『え?なになに。お前のクラスでCD売っていいって?しょうがねーな、持ってってやるか』
「ええ、マジでやめてくださいよっ」
言いながらあはは、と笑うと視線の先で待ってた有坂の眉間に皺が寄る。
思わず背筋がピンと伸びた。
「あっ、じゃーまた」
『はいはーい』
軽いノリで通話が終わった。
なんか兄貴がもう一人出来たみたいだ。
「お兄さんか?」
「えっ、違うけど。ちょっと進路のことで相談してる人がいるんだ」
「親ではないのか」
「んーと家族じゃなくて…」
なんて説明しよう。
さっきの話でも思ったけど、まだ有坂に進路の話はしたくない。
それにこの間有坂の勉強の邪魔もしちゃったし、文化祭の事や水瀬のリベンジもあって今有坂はそれどころじゃないはずだ。
「…言いたくないのであれば詮索はしないが、あまり迂闊に他人に気を許すな。お前は騙されやすいのだから」
「――えっ」
不意に言われた言葉に驚く。
確かに前にハルヤンの件でちょっと危ない目にあったけど、でも今はもう大丈夫だ。
それに日比谷さんは担任ともサダ兄とも友達だから、絶対に危ない人じゃないと思う。たぶん。
「別に変な人じゃないって。進路について聞いてるだけだし」
「…そうか」
有坂はいつも通りそう言ったけど、でも表情はどこか険しいままだ。
何かマズい事を俺は言ったのか。
有坂には絶対に嫌われたくない。
嫌われるくらいなら進路なんてどうでもいいし、文化祭だってどうでもいい。
むしろもう全部どうでもいい。
今までみたいに有坂以外を全て投げ捨てたい気持ちでいっぱいになったけど、でも慌ててふるりと首を振る。
俺は有坂を信じるって決めて、もう疑わないって決めたんだ。
だからこんなことで有坂は俺を嫌いになったりはしない。
これで周りが見えなくなって全部いいやってなったら、前と同じで何も変わらない。
慌ててそう思い直したけど、ふと気付く。
俺は信じてるけど、有坂の方は――?
一抹の不安が過ぎったが、それでも時間は待ってはくれない。
いつの間にかうだるような暑さも終わりを告げ、すっきりとした空が広がる秋へと移り変わる。
学校内も賑やかに彩られ、いよいよ高校生活最後の文化祭が始まっていく。
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