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賢者vs村人Aの対決は、なんとか無事賢者に白旗が上がった。
ホッと胸を撫でおろしたが、さすがは俺の後輩だ。
面倒見て育ててやっただけある。
「ふふ、このままゼタスが来ないようでしたら、僕の優勝になりそうですね。後夜祭が楽しみです」
なんか勝ち誇ったように水瀬が言ってるが、有坂が来ない訳ないだろ。
そう思っていたが、刻一刻と時間は過ぎていく。
水瀬も次々挑戦してくる奴らを薙ぎ払って、少し途切れたところで一息ついた。
「ゼタス、来ませんね」
「…う、うん」
「まさか逃げましたか。自分から挑んでおいて逃げるとは――」
「はぁ?有坂がそんな奴なわけないだろ」
水瀬が勝手な事言ってるが、有坂に限ってその線はありえない。
だけどこんなに連絡がこないと、朝宮さんと何かあったんじゃって思ってしまう。
「そうは言っても彼は来ていません。そもそも今回の対決が無いにしても、ラインハルト様を置いて文化祭を楽しむなどありえません」
「そ、それは…」
「こんなに外部から貴方目当ての人が来ている時に、ラインハルト様を一人にするなど僕には考えられません」
ため息交じりに水瀬に言われて、胸がズキリと痛む。
確かに今日は有坂を探しながら、めちゃくちゃ話しかけられまくった。
変な奴に写真撮られて、男女構わずついてこられて、またスカウトされたりもした。
有坂がいたらそんなことにはならなかったのに。
「…で、でも朝は一緒に回ってくれたんだ。それに有坂だって色々あって忙しいし――」
「貴方を置きざりにして遊んでいる人を庇うのですか?こんな日にラインハルト様より大事なことがあるのでしょうか」
「……」
そう言われて押し黙ってしまう。
俺だったら何を差し置いても有坂を優先する。
文化祭めちゃくちゃ俺が楽しみにしてたの、有坂だって分かってるはずだ。
俺がいつだって有坂の側にいないとダメな事も、ちゃんと分かってくれてるはずなのに。
「僕も以前の件で少しは彼の見方を変えていたのですが。だからこそ今日まで何も言わずに、ラインハルト様が幸せでいるのならと思っていました」
「…な、なんだよ」
「ですがやはり彼は、あなたを悲しませる。彼と共にいることが貴方のためになるとは思えない」
いつになくハッキリした口調で言われた。
連勝中で気分がハイになってるのか。
だけどその言葉は、今俺にとってリアルタイムに言われたくない言葉だ。
俺のためにならないなら、きっと有坂のためにだってならない。
今俺は有坂のためになることを必死で探してるんだ。
それがまだ何も出来てなくて、焦ってる。
それどころか有坂を怒らせてしまった。
「ラインハルト様、どうか目を覚ましてください。彼は貴方を蔑ろにしているのですよ」
「違うっ。有坂はそんなことしない」
「ならなぜ彼は来ないのですか。ラインハルト様を軽く思っているからではないのですか」
「っそれは…」
水瀬に言われて不安な気持ちがどんどん広がっていく。
有坂はこんなにイケメンでこんなに可愛い俺の事が大切じゃないのかって、心配じゃないのかって思えてきて、寂しくてたまらなくなる。
――だけど。
「…有坂は来るに決まってんだろ。きっと事情があって遅れてるんだ。それに俺が勝手に先に来ただけで、リベンジマッチの時間はまだだろ」
「それは…そうですが」
「これ以上有坂の悪口言ったら許さないからな。ちゃんといい子で待ってろ」
そう言って手を伸ばして、水瀬の頭をくしゃりと撫でてやる。
本当は心臓バクバクというか、むしろガチで嫌われてたらどうしようって足もガクガクしてるけど、でも俺は信じないといけないんだ。
だって有坂は俺のために、たくさん自分の大切なものを捨ててくれた。
俺だけは絶対にそれを忘れたらいけないんだ。
あんなにしてもらってまだ有坂を疑うなんて、絶対にしちゃいけないんだ。
「…ずるいです。ラインハルト様」
「え?」
「僕のことそうやってあやせばいいと思っているでしょう」
髪を撫でてやってたら水瀬がどこか照れたように視線を彷徨わせるから、クスッと笑ってしまう。
なんだかサダ兄達に遊んでもらえなかった時の俺みたいだ。
やっぱり水瀬はどこまでいっても俺の後輩だ。
「…こうなったら、そっちの方向で貴方の心に入り込んでいった方がいいのでしょうか」
「そっちってどっちだよ」
「可愛い後輩と思って下さるのは光栄ですから。ラインハルト様、もっと僕の事慰めてくれますか?」
そう言ってグイと腰を引き寄せられたが、調子に乗ってんじゃねえ。
つーか会話は聞かれてないにしても人前だ。
「やめろ。有坂に見られたらどーすんだ」
「彼がいないのがいけませんから。後輩は先輩に甘えるものでしょう?」
「バーカ、甘えるんじゃなくて尊敬しろっ」
「もちろん尊敬していますよ。格好良くて、とても可愛らしい。僕の、僕だけの勇者さ…」
「――何をしている」
凍り付くような鋭い声が背後に響いた。
心臓がバクリと跳ね上がる。
「…ああ。ふふ、すみません。見られてしまいましたね」
水瀬がどこか不敵に口端を歪めて、俺の背後へと視線を向ける。
ハッとして振り返ると、めちゃくちゃ探し求めていた有坂が教室の入り口に立っていた。
朝宮さんはいない。
一人だ。
やっと会えた事に、張り詰めていた心がじわりと緩んでいく。
やっぱり有坂は、ちゃんと来てくれた。
だけどその顔は安定の険しくて、ふと腰に回ったままの水瀬の手に気付く。
慌てて引き剥がしたが、コイツ絶対わざとやりやがったな。
「全く待ちくたびれましたよ。随分遅い登場ですね、ゼタス」
「時間には遅れていない。結城、こっちへ来い」
来いと言われたら俺が行かないわけがない。
さっきまでめちゃくちゃ寂しかったのに、有坂に呼ばれたらドキドキして堪らなくなる。
怒ったような顔してたけど、怒ってなかったのか。
すぐに飛びつくように行こうとしたが、水瀬にグイと手首を掴まれた。
「ラインハルト様を放置していたくせに、随分な言い方ですね。先に言わなければならないことがあるのではないですか?」
「そうだな。…だがそれより先に、まだやらねばならぬことが残っている」
「ふふ、残念ですが貴方とラインハルト様が話し合う機会などもう訪れませんよ」
そう言って水瀬は俺から離れると、ツカツカと教室の中央へ歩み出る。
何かと思えば、スッとそれっぽく手を広げてみせた。
指し示すその先には、有坂をラストバトルへいざなう様にゲーム機が置いてある。
「――なぜならラインハルト様の後夜祭の時間を頂くのは、この僕だからです」
高らかに宣言した現チャンピオンの発言に、ウオオとギャラリーが盛り上がる。
さすがはモデル兼俳優。
演出の仕方ばっちりじゃねーか。
安っぽいドラマ見てるみたいでちょっと面白いぞ。
有坂は安定の真顔だけど、一瞬だけピクリと眉が動いた。
俺には分かる。
あれは絶対、イラッとした時の顔だ。
「いいだろう。俺ももう二度と膝を屈するつもりはない。水瀬、胸を借りる」
挑戦者たる有坂の言葉に、更に観客も盛り上がる。
というか周りもノリ良すぎかよ。
賢者エトワールvs魔王ゼタスのラストバトルが、今ここに始まる――。
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