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鶴見流星 修学旅行編1
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俺がまだ小学生のガキのとき、はじめ兄ちゃんに「なんで、とうちゃんはお酒ばかり飲むの?」って聞いたことある。
その当時、はじめ兄ちゃんは工業高校通っていて、地元では有名な北神奈川連合の総長していた。
兄ちゃんは金髪の短髪で、鼻ピアスしていて、背も高かった190ぐらいあったかも。
すごく目立つ人で怖かったよ。でも俺にはすっごく優しかった。
はじめ兄ちゃんは言った。
「父ちゃんは弱いから酒飲む。酒がないとあいつ生きていけないんだ。あれでも昔はやさしい父ちゃんだったんだ。なんで酒なんかに逃げてんだろうな」
はじめ兄ちゃんは、高校卒業するとヤクザになった。
一緒にお風呂に入ったら、背中から尻から腿から体中に和彫りの入れ墨が入っていた。
そん時、はじめ兄ちゃんは21歳だったと思う。
背中に観音様、体中に蓮の花や極楽をイメージした彫り物入っていた。
ただ、兄ちゃんは、もうカタギじゃないんだって、ちょっと寂しくなった。
俺は、総長やってたころの兄ちゃんが一番大好きだった。
あの時のはじめ兄ちゃんは、一番輝いていてかっこよかった。
次男の次郎兄ちゃんは、オヤジを角材で半殺しにして少年院に入った。兄ちゃんが高2のころだったと思う。
次郎兄ちゃんもガタイがよかった。
食いしん坊で少し太ってた。将来調理師になりたいって言ってた。よくおいしい物作ってくれたよ。焼きそばとかお好み焼きとかさ。
ある日、オヤジが隼人兄ちゃんと俺の教育費と生活費を使い込んで酒買ったとか、もう明日のメシの食材を買う金も残ってないとかで次郎兄ちゃんはキレた。
オヤジが死ねば、みんな幸せになれるんだって、ブチぎれて角材でオヤジを1時間も叩き潰した。
オヤジは牛みたいに頑丈だからなかなか死なない。普通のサラリーマンならとっくに撲殺されていたと思う。
畳も角材も兄ちゃんも制服も血に染まった。
人の骨が折れる音、真っ赤な血、デカい兄ちゃんが力いっぱい振り下ろす角材。
眺めていた俺は、現実感がなくて、夢で起きていることかと思ったよ。
和牛を殺してバラす仕事している人が、黒牛をめった打ちにしているシーンかと錯覚したよ。
そう思ったら笑いがこみあげてきて、
あははは、
あははって笑った。
当時、小学生だった俺には容量オーバーすぎる出来事だった。
だから笑うしかなかった。
そうしないと心がパンパンになって破裂してしまいそうだった。
近所の人が警察呼んで、兄ちゃんはパトカーで連れて行かれた。
オヤジは身体こそ不自由になったけど、死ななかった。
化け物だよ、あのオヤジ。
ガタイが良くて、体が頑丈にできているから、死ななかった。
不自由といっても、うまく歩けなくなったのと、肩が上がらなくなったのと、左目が見えなくなったぐらいだった。
三男の隼人兄ちゃんは、いつも俺をかばってくれた。
隼人兄ちゃんは俺に似てる。俺の高校生版といった感じだ。
切れ目で、背が高くて、けっこうかっこよくて女子にもてる。
短い髪は金髪にそめてる。
俺も髪染めたいけどまだ中学生だし、高校生になってからにしようと決めている。
オヤジは俺に手をあげることはしなかったけど、よく怒鳴ったり、ぐちぐちわけわかんないことを説教みたいに何時間も繰り返した。
隼人兄ちゃんは、けっこう繊細なほうで、酒でオヤジが狂っていく姿を見ていたら、たまらなくなって「いい加減にしろ」とキレて、オヤジのことをこぶしでガンガン殴る。
オヤジを殴った後、隼人兄ちゃん、カビだらけのタイルの風呂場にこもって泣くんだよ。声は聞こえないけど、泣いてるってわかる。
そのうち隼人兄ちゃんのほうが壊れてしまうんじゃないかと、俺は心配になる。
それが俺の家庭環境。
*------------------------*
俺、本当は中3のはずなのに、中2。15才、鶴見流星。
1年の時の大半、入院していて中1だぶった。
脳腫瘍の開頭手術でかなりやばい橋わたったよ。
医者に死ぬかももしれないって言われたけど、どうにか生き延びた。
2年の始業式に見かけない奴がいた。
中途半端に髪伸ばして、ちびで、男女みたいなやつ、キレたらヤバそうなやつ。
真琴に聞いたら、1年の三学期転校してきた羽間朝日。
真琴の友達だってよ。
話してみたら、そいつ関西弁なの。
「せやなー」とか「あかん」とか、たまに言うの。
妙にさまになってて、かっこいいなと思ったよ。
ただな、その関西弁と髪と態度がクラスで浮きまくり。
案の定、性格悪そうなやつらに目つけられて、陰で悪口いわれてんの。
朝日は、一見おとなしそうだけど、キレるとやばいタイプ。
髪のヘアピン、男子三人にいじられて、キレて、なにしたと思う?
朝日のヘアピン、ひったくって窓から外に捨てた相模ってやつのさ頭、朝日、シャーペン振り下ろして刺そうとしたんだよ。
さすがの俺もびっくりして、朝日のこと止めたよ。
キレた理由訊いたら、そのヘアピン、真琴からもらったんだって。
ヘアピンぐらいで、そんなことするなよ。
頭狙うのはやばいって。
朝日ってさ、感受性強くて、ちょっと変わっていて、なんか気になる奴なんだよな。
友だちになりたいと思ってさ、休み時間、朝日によく話しかけたよ。
4月中に、友達って認めてくれたみたいで、家にも呼んでくれたよ。
朝日って親いないのなー。
保護司と住んでるの。
その保護司がよー、まだ20代の若い男でさー、なんか精神科医してるらしいよ。
朝日に聞いたら、去年、母親を刺して、警察に行って、それで保護司の人が朝日の面倒みてるらしいよ。
こいつマジでかっこいいと呆れた。
呆れたって変な言い回しかもしれないけど、呆れたんだよ。
中1で人刺した?それも実の母親?
高校入ったら、俺と北神奈川連合の頂点目指そうぜ。
朝日に総長になってもらいたい。
特攻服着て、さらし巻いたらすげぇさまになると思うんだよ。
朝日のキレた顔もかっこいいんだよ。
目がギンって据わってさ、迫力あるの。
ゾクゾクするほどかっこいい。
こんなちびなのにさー。
身長153しかないのにさー。ちなみに俺は172センチあるよ。
でも俺は朝日の笑っている顔が一番好き。
言っておくけど、あくまでも友達としてな。
6月のあの昼休みは、ある意味最高だったね。
廊下で、ラインで次郎兄ちゃんにオヤジのこと相談して、教室に戻ってきたら、朝日と男子数人が殴り合いの喧嘩してるの。
朝日、ぼこぼこにボコられてんの。5対1じゃ、勝ち目ないよな。
おもしろそうだから、俺も乱入。
5対2でも俺ら楽勝。
自慢じゃねーけど、俺、喧嘩には自信あるの。
朝日のやつ、またキレて、机によじ登って相模の背中に飛び蹴り。
相模の奴、机に頭ぶつけて流血するわ。それ見た女子は悲鳴あげるわ。
すんげー昼休みだった。
まじ惚れたわ。高校入ったら、こいつに総長になって欲しいと思った。
三番目の兄ちゃんが、連合の総長しててさ、兄ちゃんが高校卒業したら誰かに総長の座を譲るわけ。
俺、総長とか別になりたくないよ。2番ぐらいでうだうだしているほうがいい。
夏休みは、朝日と全然遊べなかった。
夏期講習とかでいそがしいんだってよ。
夏休みは、地獄だった。
家にさ、アル中のオヤジがいるわけ。
フランケンシュタインの怪物みたいにでかくて、黒牛みたいに寝っ転がって酒ばかり飲んでるオヤジがいるんだよ。
長男のはじめ兄ちゃんはヤクザやってて組事務所の近くのマンションに住んでるし。
次男の次郎兄ちゃんは闇金やってて遅くまで事務所にいたり回収で外回りしてたり。次郎兄ちゃんは高校中退してから、一人暮らししている。
三男の隼人兄ちゃんは総長やってるからいつもヤンキー友達と一緒で家に帰ってくるのは寝るときだしな。
アル中のオヤジが昼間から酒飲んで、たまに家で暴れたり、掃除も家事もできないから、もうこの平屋はボロボロよ。
昨日も、さわいで夜中まで起きてよ。酒飲んで、ばたんと爆睡してやんの。
一番たまんねーと思うのが、オヤジの手が震えててよアル中の禁断症状でてて、酒買うからって金を俺にねだるとき。
「な、なぁ、流星金貸してくれよ。300円でいいからよー」
「金なんてねーよ。金欲しいなら兄ちゃんにねだれよ」
そしたらよ。くそじじい、ふらふらなのに外に飛び出して行って。
昼頃、警官に連れられて家に戻ってきたよ。
コンビニで万引きだってよ。
マジ死ね。
その夜、オヤジがよ、台所で冷蔵庫のドア一晩中開けたり閉めたりしてるの。
いらついたんで「いい加減に寝ろよ、オヤジ」って言ったよ。
くそじじい、冷蔵庫の生のソーセージをくちゃくちゃ手づかみで食ってるの。
夜中の2時によ。
「流星、つまみつくれー」ってよだれ垂らして、べろべろに酒に酔って。
台所の隅に、日本酒の紙パックが数個転がってるし。
オヤジが散らかした台所片づける。
テーブルの上にどろどろしたもんがのってる。
ゲロじゃないといいんだけど。
新聞紙持ってきてとりあえず始末しようとする。
ゲロじゃなかった、背油系のラーメンの汁じゃん。
ゲロとかそういう汚い物の始末ってマジで心折れそうになるよな。
俺、もうこんなボロボロの家で、オヤジの面倒みる生活疲れたよ。
やになって、隼人兄ちゃんたたき起こした。
「オヤジがまた壊れた」
「マジかよー。もういい加減にしてくれよー」頭かきながら、かったりーなーって兄ちゃんが起きてくれる。
台所で兄ちゃんが怒鳴っている。
隼人兄ちゃんは、オヤジと殴り合いの喧嘩始めるしさ。
家族なのに本気で殴り合いの喧嘩してるの。
見てたら、もうやるせなくて、俺、外に出た。
家から、がらがら、がっしゃーんとか物の倒れる音とか壊れる音が聞こえてくんの。
物心ついてから、俺ん家こんな感じだったから、それが普通だと思っていた。
でも病院に10カ月入院して分かったんだ。俺んちは最低で、オヤジはアル中のろくでなしだって。
病院に入院しているほかの子たちなんて、毎日のように母親が看病に来てさ、たまにサラリーマンの父親も見舞いにくるの。
家族って感じでさ。テレビのドラマかよ。父親はしらふできちんとしたスーツきてるしさ。うちのオヤジみたいに酔っぱらって転んだり、ものぶっ壊したりそういうことしないの。
うちもドラマに出てきそうな、狂った家庭だけどよ。
深夜に暗い外で突っ立っている俺。
ぼろい平屋の家から、気違いの喚き声と隼人兄ちゃんがオヤジに向かって「くそじじい。さっさとくたばれ!!」ってどなってる声が聞こえる。
これ毎週毎週定期的にあること。
ほぼルーチンだよ。
オヤジはクソだけど、兄弟同士の結束が固いからどうにか家族としてなりたっている。
オヤジのせいで、はじめ兄ちゃんはヤクザ、次郎兄ちゃんは闇金経営者、隼人兄ちゃんは地元のヤンキーグループの総長になった。
俺はまだ中学生だから、ただのヤンキーだけど、そのうち兄ちゃん達みたいになるのか。
そのうちオヤジもくたばるだろう。
オヤジが死んだら、花火打ち上げて、バイクでパレードして、火葬場で踊って、祝ってやるよ。
俺にとって、オヤジはただの化け物。
兄ちゃんたちは、人間だったころのオヤジを知っているけど、俺は、アル中で化け物のオヤジしか知らない。
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