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苛つく葛藤
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見合いなんてしたくないし、必要ない。
そう、突っぱねられれば、どれだけ楽だろう。
裏方でも、近衛の家業に携わっているオレは、母の申し出を無下にも出来ない。
「あなただって、近衛家の…、αの血を引いているんだから、αの女性と結婚すれば、αの子を授かる確率が高いはずよ。そうなれば……」
近衛家はまた、αの一流貴族に戻れるとでも言いたいのか……っ。
子供を授かったとしても、その子がαであるか判別されるのは10年以上も先だ。
それに、αの子供を授かれる確率など、ほぼゼロに等しいのに。
「会うだけでもいいから。どうかしら?」
会いたくない。
会ったところで、オレは、結婚などする気は、更々ない。
そう断るのは、簡単だ。
嫌だと、結婚などする気はないと伝えればいい。
だけど、近衛の家とは上手くやっていかなくてはいけない……。
苛つく葛藤に、怒りを潰すように、ぐっと奥歯を噛み締める。
ふっと息を逃がし、穏やかに言葉を紡いだ。
「わかりました。…もう、セッティングされてるんですよね?」
「えぇ。日曜日の11時に……」
言葉を濁す母に、思った通りの返答に、オレは、溜め息を吐くしかない。
オレには、断るという選択肢なんて初めから存在すらしていない。
「…断られるかもしれないですよ。オレ、βですから」
母に、あらぬ期待を抱かせないように、嫌みも込めて言葉を放つ。
「いいのよ。もし、今回がダメでも、また……ね?」
今回がダメでも次回があり、それは、延々と続いていく。
オレが、はっきりと断るまで、母は縁談の話を持ちかけてくるだろう。
一生、光が射すことのない暗がりの中へと、放られた気分だ。
「……とりあえず、日曜にお伺いします」
とりあえず一度、顔を出すしかない。
懐里のコトを話すしか、この問題を解決する方法が無さそうだと、肩を落とした。
電話を切り、深く息を吐く。
家に戻ることも、見合いの話も、オレの心を重くする。
膝の上で寝ている懐里の存在だけが、オレの心を癒してくれる。
腿に感じる懐里の重さに、柔らかくその頭を撫でた。
さらさらと流れる黒髪が指先を滑る。
届かない想いに焦がれるとしても、大好きな温もりが手の届く場所にあるコトが、オレの心を少しだけ軽くした。
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