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今は幸せに浸るべき
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次期当主である賢理の番、神田はもちろんのコト、オレのパートナーである懐里にも、顔を売っておいて欲しいと言われた。
この2人は、近衛家の人間だと宣言する意味合いを持っているらしい。
『この2人に何かがあれば、近衛家は、報復に出ます』と宣言しているようなものだ。
近衛家の後ろ楯とは、それほどまでに強大なのだ。
オレ的には、懐里を近衛家に巻き込むことは避けたかった。
いくらβやΩの出席が許されたといっても、参加者の大半がαだ。
こんなαばかりが集う場所へ連れてくれば、[運命の番]に出会う確率も上がってしまう。
懐里との別れが早まってしまう気がしてならなかった。
だが、父の考えは違った。
懐里の[運命の番]を見つけておけば、対処もできると考えたのだ。
自分達夫婦が、運命ではない相手と結婚しているのだから、と。
自分達は、幸せのためではなく、地位や名誉のための政略結婚だ。
たけど、父は、この結婚を汚点とは、不幸なコトだとは、捉えていなかった。
母には悲しい思いをさせたかもしれない。
それでも父は、全身全霊で母を愛していた。
運命とは違う相手ではあったが、母には惜しみ無い愛情を向けていた。
オレには、名の通り幸せになって欲しいと告げた。
運命だけが、最良とは限らない。
運命だけが、幸せの形じゃない。
自分は、母との結婚を幸せだと感じていたから、と。
懐里のΩのフェロモンに絆されてしまうαが出てくるのではないかと心配もした。
でも、妊娠中の懐里のフェロモンは、極薄くなっているらしい。
「幸理、さん?」
声を掛けてきたのは、以前、見合いをしたαの彼女だった。
彼女は、オレのジャケットの裾を掴み続ける懐里の姿に、ふわりと笑んだ。
「愛が勝ったみたいね」
満足そうな笑顔で、祝福の言葉を囁く彼女。
懐里の少しだけ目立ってきたお腹は、ゆったりとした作りのスーツで隠れており、妊娠には気づいていない様子だ。
それでも、彼女は俺の愛が運命に勝ったと口にした。
「わかりませんよ。オレは、きっと、いつまでも怯えてます……」
苦笑いを浮かべる俺に、彼女は、眉尻を下げる。
「今は幸せに浸るべきよ。見えない先のコトを考えて悲観するなんて勿体無いじゃない?」
ふふっと上品に笑う彼女に、勇気を貰う。
「……そう、ですよね」
怯えの気持ちを振り切るように、口角を上げたオレに、彼女は誇らしげに頷いた。
「私も踏み出すことに決めたの。運命とは違うけれど、私を愛してくれる人と一緒になろうと思ってる」
迷いがない訳じゃない。
でも、口に出すコトで、自分の気持ちに区切りをつけようとしているようだった。
「お互い、幸せになりましょう」
応援の意を込め紡いだオレの言葉に、彼女は小さく頷き、去っていった。
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