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運命に立てる牙
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兄弟が物騒な話をしている間に、那須田は、空いているベッドに持ってきた私服を置く。
近衛は、人の間を縫うように僕の傍まで歩き、向かいのソファーに腰を下ろした。
話が一段落したと感じた那須田が、懐里へと瞳を据えた。
「懐里さん」
掛けられた声に懐里は、問うような瞳を那須田へと向ける。
「貴方は、[運命の番]に出会いたいですか?」
突飛な質問に、懐里は瞬間、言葉を失う。
柔らかく問うた那須田に、幸理は、不安な心を体現するような訝しげな表情を見せる。
「番……」
懐里は、ぽつりと声を漏らし、視線を落とした。
なんで今なんだと、今にも怒りを爆発させそうな幸理を他所に、懐里は、光の宿る瞳を那須田へと戻す。
「……おれ、やっぱりαの人怖いです。それに」
懐里の手が、柔らかく下腹部を撫でた。
「おれは、幸理が好きだから、[運命の番]には出会いたくない。この子と、幸理と、3人で居たい……」
ゆるりと上がる懐里の口角は、この上ない幸せを溢れさせた。
懐里の答えに納得したような表情を見せた那須田が、言葉を繋ぐ。
「……隠していても仕方ないので、白状します。私の恋人は、αで…、懐里さんの[運命の番]です」
切なげな、酷く哀しげな笑みを浮かべた那須田は、言葉を紡ぎ続けた。
「私は、その恋人に…縁に言われました。俺が好きなら足掻け、と。縁は私のものだと精一杯の駄々を捏ねろ、と」
困った人だと言うように、那須田は、眉尻を下げた顔で笑む。
「どうするべきか、悩みました。でも、…決めたんです。私は、足掻きます。縁のために、懐里さんのために、幸理さんのために……自分のために。喩え運命が絶対だとしても、我儘を通したい」
宣言する那須田の瞳には、強い意思が宿る。
一度、ゆるりと瞬いた那須田は、再び口を開く。
「懐里さんは、無力です」
那須田の言葉に、わかっているけど解せないと言いたげに懐里の表情が歪む。
「仕方ないコトなんです。縁に出会ってしまったら、きっと、懐里さんの幸理さんへの想いは綺麗に消えてしまう……だから」
するりと滑った那須田の瞳は、幸理を捉えた。
「幸理さん、貴方は、戦ってください。貴方の大切な人は、貴方がしっかりと掴んでいてください。簡単に白旗など上げないで。運命に委ねようなどと思わずに、精一杯、我儘に生きましょう? 私も縁も、全力で足掻きますから」
吹っ切れたような笑顔を見せる那須田に、幸理は、決意を表すように、ぐっと拳を握った。
αという絶対的な魅惑。
Ωという誘惑の香。
見えない運命という糸で引き合う存在を、βという無味無臭の壁で阻めるのか。
その答えは、たぶん一生わからない。
だけど、足掻き続ける。
愛おしい存在が、その手から消えてしまわないように。
僕は、諦めるコトしかしなかった。
愛する人の地位や名誉を守るためには、自分が引くコトが、最善だと思っていた。
でも、近衛は諦めるコトを拒んだ。
愛は勝ち取るものだ、と。
僕らの幸せは、妥協の上には存在しない。
愛する人の傍に居たいなら、それなりの覚悟が必要なのかもしれない。
[運命の番]に出会い、運命を享受し、[運命の番]に牙を立てた者。
[運命の番]の存在を疑い、[運命の番]ではない者に牙を立て、運命を捩じ曲げた者。
[運命の番]の存在を否定し、運命そのものに牙を立て、運命を否定し続ける者。
それぞれ別の運命へと立てた牙は、それぞれ別の幸せへと、道を作るのだろう……。
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