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2日目、音楽室
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(あ、やっと見つけた……)
よく考えれば僕はこの学校に来たのは初めてな訳で、迷いに迷いようやく音楽室に辿り着いた。
もう居なくなっているのではないかと思ったが、まだ居たので安心した。
兎田は音楽室の真ん中に座ってピアノを見ていた。
隣に立ち、声を掛けた。
「……ピアノ、好きなの?」
兎田は少し驚いたみたいだったけど、すぐ向き直って「あぁ」と返した。
「………吹奏楽部だし、俺」
「へぇ」
それは少し意外だ。
「じゃあ……音楽好きなんだね」
「うん」
その返事はどこか嬉しそうだった。
「………ピアノの音が好きなんだ。ガキの頃、こっそり人間の演奏聞いた時からさ」
兎田はぽつりぽつりと話し出した。
「それ以来ずっとピアノ弾くのが夢だったけど………俺には弾けないんだ。俺の手じゃ」
確かに、細い鍵盤を弾くには人間くらい指が長く細くないと厳しいだろう。ましてやウサギの手では不可能に近い。
兎田は不意に僕の手を取った。驚いたけど、兎田の目を見れば引っ込めるなんて出来なかった。小さくてふわふわした手だった。
「兎田くん………?」
「だから俺は人間の手が羨ましいんだ……ピアノ弾けるから」
「……そっか」
そう言って兎田は僕の手を撫でた。少しくすぐったかった。
「…………お前は…笑わねぇの?」
「え?何で?」
「今までの奴は…馬鹿にする奴がほとんどだったから」
「………何で馬鹿にするんだ?」
意味が分からなくて聞き返すと、兎田が吹き出した。
「ははっ………お前、何つーか…変な奴だな」
「兎田くんこそ……!!」
「研介でいいよ。その代わり凛って呼んでやる」
研介は謎に上から目線で宣言した。
言い返そうとしたら、一時間目のチャイムが鳴った。
「あ、やばっ……戻らなきゃ」
「……サボれば?」
研介が間延びした口調で言った。この口振りではサボり常習犯と見受けられる。
「さすがに転校初日にサボるのはまずいだろ…」
「ふーん、そう。じゃ、俺も戻る」
気だるそうに言うと、立ち上がりさっさと行ってしまった。
「あ、ちょ……待てよ!!」
だから歩くの速すぎだって………
僕は小走りで追い掛けた。
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