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第20話 逃げろ
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激しく、苦しくなるようなキスがどれぐらい続いたのか。
やがて息も絶え絶えになった頃、どちらのものともわからない銀の糸が引いてようやく男の舌と唇が離れる。
「っ、は、ぁ、はぁ……っ、おぇ」
(気持ちわるい)
知らない男にキスされたことも。
全身が熱く疼くような感覚に、まるで自分の身体じゃないみたい。
でも、一番気持ち悪いと感じるのは……嫌だと、気持ち悪いと思うのに自分の体の中心が熱を持っていること。
初めてだった。
学校の保健の授業でしか習ったことがない。
自分の意志とは反してむくりと熱を持つそこに、気持ち悪さが押し寄せる。
強い吐き気と頭を揺さぶられるような激しい目眩をこらえながら立ち上がる。
昂る熱と疼く身体に鞭を打つ。
(逃げろ)
早く、一秒でも早く。この場から。
男が手を離した一瞬の隙をついて、体を無我夢中で動かす。
(はやく)
吐き気も目眩も、火照る熱も疼く身体も全てこらえて。
(もっと、はやく)
頭では理解しているのに。
震える足がもつれて躓(つまず)く。
「うぁっ……」
転んだ拍子に脱げた靴。
地面は雪で濡れている。
早く起き上がれと頭では理解しているのに、そんな思考も全て脳内をドロドロに溶かしていく。
(ほしい……)
「そんな身体で逃げれるわけねぇだろ」
(だれか、)
後ろから男が何か言っているが、わからない。
「あ、はぁ……は、」
(はる……)
僅かに残った正常な思考の片隅に浮かんだのはハルの名前だった。
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