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異常2
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「音葉、行ってくる」
紅や音葉、それに仕事。
考えることが多すぎて、身なりを整える事が億劫になり、歯を磨き、顔を洗ってから、やる気のない猫ちゃんがプリントされたtシャツの上に適当にダウンを羽織った。下は毛玉のできたスウェットのまま。ボサボサな髪は、無理やりニット帽で押さえ込んだ。
シーチングで仮縫いした衣装を大きな鞄に詰め込んで、タクシーに乗せた。
音葉に一言掛けようと部屋に戻ったが、布団から顔も出さないし、返事もない。
布団の中に手を入れ、音葉の手を握る。
「昼には帰る。あの鍵は絶対に締めて」
返事の代わりに、温かい音葉の手がゆっくりと握り返された。
「行ってきます」
タクシーに乗り込めば、隣に雨音が乗り込んできた。
「いつもの劇場前で停めてください」
「はいよ」
予約したタクシーの運ちゃんはだいたい同じ人。
ちょっと厳つくて話しかけにくいが、話すとただの娘大好きな親父さん。
最近の悩みは娘が婚約した事らしい。
「あ、こないだ娘と観に行ったぞ」
「うちの舞台ですか?」
「決まってんだろ!」
まさか観に来てくれていたとは。
うちの舞台はあまり年配の人には評判が良くない。
高評価するのは、怪奇小説やホラー小説を執筆していたり、愛好している人が多い。
「どう……でしたか?」
「俺ァ、わかんねぇが、娘は感動してたみてぇだな。やる気が出たーとか、創作意欲がわくーだとか言ってたな」
やる気?創作意欲?
娘さん、もしかして作り手…?
「嬉しいです。…娘さん、何か作られてるんですか?」
「あぁ、小説書いて飯食ってるよ。なんつったかなー、ペンネーム……夢…夢丸」
「夢丸きょう?!」
ずっと黙ってスマホを弄っていた雨音が急に大声をあげた。
「そう!それだ!」
「サインください!!!」
「おう!貰ってきてやる」
「ありがとうございます!夢丸さん、本当に好きなんです!新刊の柚木って男、最低のクズでしたが、窮地に立たされた時に僅かに幼少期に親から注がれた愛情がかいまみえて、状況の無残さに拍車がかかり、最高でした!!」
凄い喋るな…
雨音もこんなに興奮して喋る事あるのか。
「お、おう…伝えとく。にしても、にぃちゃんもそんなに興奮する事あるんだな…てっきり冷めてる最近の若者だと思ってたぞ」
確かに運ちゃんの言うとおりだ。
俺も雨音は紅意外興味が無くて、さめてる奴だと思っていた。
「夢丸さんは特別です!」
「わかった、わかった。着いたから降りろ」
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