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「悪いが仕事が入ったから行ってくる。夜までには戻ってくるから適当に食っとけ」
数分で部屋から出てきたイカリさんは身支度を済ませて大きな鞄を持つと俺に振り返る。
「何かあったら連絡………つっても連絡できるもんがねぇな。まあいいか、しばらく大人しくしとけ」
「ん」
ガチャンと扉の閉まる音がして家の中の音が消える。
時が止まってしまったと錯覚するほど静かだ。
時計の秒針の音だけが急に大きくなったように感じて、膝を抱えた。
イカリさん、いつ帰ってくるかな……。
窓ガラスの外が薄暗くなり始めても玄関の開く音はしない。
月が出て、空が暗闇に包まれて、秒針がいくら鳴ってもイカリさんが帰ってこない。
目を瞑っても開いても、ひとり。
あ……これ。
「………捨てられたかな」
自分にも届かないくらい小さな声は、誰にも拾われることなく消えていった。
何人か前の飼い主も、俺を家に残したまま引越しをして、あと少しで死ぬかなってところでサクマさんが来たんだ。
もう、会えないのか。
ねえイカリさん。
俺、このぐじゅぐじゅした感情が何なのか、わからないよ。
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