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艮くんの勉強。
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***
つい最近、お前は鬼だと言われた。
意味が解らない。つうか鬼て何だ、鬼て。あの身体の赤い角のある節分とかで見るアレか?桃から生まれたやつに倒されるアレか?冗談じゃない。今のところ俺は身体も赤くなけりゃ角もないし、桃から生まれたやつに追いかけられてもない。
鬼だなんて言われる筋合はない。
「…何で俺の髪赤いんだよ」
「さあ。外人の血でも混ざってんじゃない?」
「おふくろも親父も日本人だろ」
「そうね」
「その……鬼だから…とか」
「は?なに?」
「…何でもない」
だけど家族にこんなこと尋ねるくらいまでには混乱している。
「てめえのせいだ」
真向かいで玉子焼きをくわえてた渡辺が目をパチクリと開け瞬きを数回した。こうやって見ると本当に人をおちょくった様なとぼけた面をしている。
「鬼て何だ」
「え?」
「鬼て何だ」
それ以上に要約の仕様がないのでそう二回繰り返した。渡辺はくわえてた玉子焼きを半分食べ、残りを俺の口に運んで箸を置いた。
「ウィキペディアで調べたら?」
「殺すぞ」
その箸で目ん玉抉りだしてやろうか。
「ウソウソ。えっと…大蛇の末裔かな」
「大蛇?」
「僕たちはそう聞かされてきた。大蛇と人間との間に生まれた子供。それが鬼」
ダメだ。理解する気が起こらない。鬼だけでももう充分なのに大蛇だなんて言われたら歩み寄る気も削げる。人間と大蛇。
「まあ人間の血が混ざってんだから、日本人と欧米人みたいなもんだな」
「うーん、種族が違うけどねえ」
種族て何だ。RPGか。
「その昔は悪蛇の血が抜けず人に害をなしたとか」
「害って…喰ったとか?」
「て、言われてるね」
「やっぱ鬼って人喰うのか…」
「昔の話だよ」
渡辺は笑ったが、だとしたら何故いまだに退治屋なんてのが存在するのか。癪な話だが渡辺からはときたまヤンキー同士の喧嘩にはない、鬼気迫るものを感じる。それはもう殺意に近い、狩人のものだ。どうして。
俺が鬼だからか?
「…てめえのほうが…」
「え?」
「別に」
食べたい、てあちこち噛むくせに。渡辺のほうがよっぽどだろう。
「家族のひとからは何も聞いてない?」
「何も。むしろ馬鹿にされた」
「…そうか」
渡辺は何か考えながらもじーっとこっちを見て親指でゆっくり俺の唇をなぞった。その仕草に身体が硬直する。いつもこうだ。この男のふとした行動が心臓を射抜く。蛇に睨まれた蛙のように動けなくなるのだ。
『…捕食される恐怖かな。』
一度だけ素直にそれを伝えたが渡辺はそう言って少し困り顏で笑っただけだった。
俺が鬼で、お前が退治屋だからって言うのかよ。
「玉子焼きついてる」
「……あ?」
「玉子焼きがついてるよ」
ぼーっと動けずにいると唇の端っこを摘まんだ渡辺がそれを取ってパクリと食べた。
「まあ、何にせよ艮くんは僕が見つけた」
「名札でも付けてんのかよ」
「毎日つけてるよ?」
あちこちについた噛み痕や赤い斑点のような鬱血を指さして渡辺が笑った。
「こうして匂いをつけてる」
「…マジか?」
「うん。これが僕が所有してる証」
これでどの退治屋にも鬼たちにも俺は渡辺のもんだと解ってもらえるらしい。そんなもんつけて歩き回ってるなんて…とりあえず、
「最悪だ…」
「!?」
出来れば一生同類には会わずにいたい。
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