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渡辺くんの門閥。
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***
むかしむかし、源頼光とその四人の家来が、悪事を働く鬼の首領・酒呑童子を退治して都に無事平和を取り戻しましたとさ。
……めでたし、めでたし。
「渡辺綸に坂田金治。双方、なぜこの間に呼ばれたか…理由は解っておるな」
だだっ広い謁見の間。御簾の前に座った黒装束の男、卜部家の嫡男が静かに話し出した。
「何か弁明はあるか」
「季行!此奴らを甘やかす必要はないぞ」
座布団の上で胡座をかいてた少年が前のめりになって口を挟む。その小さな身体に似合わない古臭い口調。踏ん反り返る姿はまるでこの家その物だと妙に感心してしまう。
「どうせ手柄を立てたかっただけじゃ」
「…あれ?貞春くんも仲間に入れて欲しかった?」
「なっ…!」
「言ってくれれば良かったのに」
「だ、誰がそんな子供みたいな事!儂はもう六つじゃぞ!」
「へえ、六つかあ」
「馬鹿にしておるなあ!」
「大殿の御前だ、私語は慎め二人とも」
目の前の男が睨みを利かす。その気迫に碓井家の子供は押し黙ると面白くなさそうにプクッと頬を膨らませた。そうゆう仕草は酷く子供らしい。普通にしていればただの可愛い子供なのに。
(…普通、ね。)
そんなもの、求めるだけ無駄なのかもしれない。そんなものは此処に存在しない。そして僕も彼らと同様、そんなものは微塵も知らない。
あの御簾の向こうとこちらがある限り。
「…綸」
御簾の向こうの人影が僕の名を呼んだ。
「なぜ鬼切を持ち出した」
「緊急事態でしたので」
冷たく抑揚のない声。あれが「源頼光」。この退治屋とゆう生業の祖。代々あの家は「頼光」の名を継ぐ。
「許可は出しておらぬ」
「…」
「……いえ…私が」
同じく呼び出された友人がその口を開いた。
「…私が許可を出しました」
「お前だけか」
「…はい」
「ならば持ち出しは出来なかったはずだ。勝手をしたお前も罰せねばならぬな」
「…」
「金治」
「はい」
「お前は破門だ」
「…!」
「なっ…、」
その決断に声が出たのは友人以外の三人だった。
「破門すべき人間が違います」
「お前を破門しても罰にはならぬだろう?綸」
「…、」
「さ…流石に厳しすぎるのでは…金治の奴も反省しておりますし、」
「不服か、貞春。」
「そ…そんな事は…」
「規律を守れぬ者は必要ない」
「…」
「そうだな、金治」
「………はい」
友人の視線が畳に縫い付けられたまま動かない。このまま全て受け入れる気だ。四天王である坂田家嫡男が破門など本家の面子が潰れるだけの話ではない。それは坂田家自体の断絶を意味してる。
ー 源氏の命令は絶対だ。
昔に聞いた教えが反芻した。
「待っ、」
「お待ち下さい…!」
僕の声を遮ったのは甲高い声だった。
「きょ……許可を出した様な気がし、ます」
碓井の子供がしどろもどろで呟いた。
「碓井は許可を出しました」
「貞春…」
「本当か?」
「は、はい!」
震えた手を誤魔化す様に強く握りしめて碓井の子供が返事をする。御簾の前にいる卜部をじっと見た。
「…季行はどうだ」
「私は……、」
「したな!季行もしたな?」
「…」
「どうだ?」
「季行…!」
「……した…かもしれません」
「……なるほど」
御簾の向こうで人影が扇を口元に置いた。
「四天王が許可したのならば仕方がない。……此奴らに感謝するのだな、金治」
「…はい」
「…して」
扇がこちらを指した。
「綸よ…それほど持ち出したかったその鬼切だが…正式に使用を許可しよう」
風が吹いて御簾が揺れる。
「酒呑童子を殺せ」
見えずとも眼は僕を向いていた。
「…」
「どうした」
「…嫌です」
「…なに?」
「殺す必要がない」
「…必要がない?」
「彼らは人間に危害を加えた訳ではない。殺す必要はない筈です」
「その様な事、問題でない」
「奴らが鬼だから退治する。ただそれだけの事だ」
ああ、何でここは空気が淀んでいるのだろう。まるで此処だけ時がない。時代に取り残された酷く狭い世界。折れた肋がジクジクと痛む。嗚呼、なんて此処は、本当に。
「お前が拒むなら他の奴に命ずるまで」
「…、」
「季行」
「はい」
「出来るな」
「はい」
「そのお話、しばしお待ちを」
広間に入ってきたのは最近よく見る顔だった。
「…小鬼ちゃん?」
「無礼者!此処は神聖な場だぞ。四天王以外が勝手に入るなど…!」
「申し訳ありません。しかし我が主がどうしても頼光公と話がしたいと」
小鬼ちゃんが合図を送ると襖の向こうから不敵な笑みを浮かべるキツネ顔の男が現れた。
「初めまして、頼光公」
「…貴方は安倍家の」
「安倍晴樹と申します。…あなた方と同じ鬼退治を生業としてる陰陽師です」
「…陰陽師」
卜部と碓井の子供がその言葉に警戒をする。安倍晴樹と名乗った男はそれに目もくれず御簾の前に座ると大殿の前に対峙した。
「酒呑童子の討伐、しばしお待ち頂きたい」
「…何ゆえ」
「この安倍晴樹が頂きたいのです」
「…なに?」
「陰陽師、安倍晴樹の名の下より酒呑童子を我が下僕として従えます」
「…討伐、待っていただけますね?」
キツネ顔が大胆不敵に笑った。
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