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渡辺くんの捜索。
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***
「どうした?夕食の時間だぞ」
「それが…晴樹様にお会いしたいと渡辺家の方が表に見えておりまして…」
「このような時間に?」
ピョコっと玄関から顔を出したキツネ目の男に会釈をする。外は真っ暗。パチパチと軽く瞬きをした安部の嫡男は「入り給えよ」と手招きした。
「…で、話とゆうのは?」
「待てーい!」
通された客間の向こうに後鬼の末裔、小角玄が座っている。対角線には僕。その間をキツネ目もとい安部晴樹が滑り込むように遮った。
「私に話があるのではないのか!?」
「話があるのは小角玄のほう」
「騙された!私に話があるとゆうから通したのに!」
「急ぎなの、ちょっと静かにしてて」
「理不尽!」
ギャーギャー喚き立てる安部を今回は同じく部外者である前鬼の末裔、小角覚が蹴りを入れ黙らせる。確か小角兄弟は安部の使い魔、つまり下僕である筈だが、主従関係は表面化されていない。「主従とは」を深く考えさせられる構図だ。いや、そんな事より。改めて小角玄と向き合う。
「艮くんに会ったよね?」
「…ええ」
「何を話したの?」
「プライベートな話です…艮さんの許可もなく貴方に話す事は出来ません」
「艮くんが他の奴らに会いに行ったとしても?」
僕の言葉に喚き立ててた安部が水を打ったように静かになった。諌めてた小鬼ちゃんが眉をひそめる。
「……マジか?」
「僕が嘘をつく必要がある?」
「知ってたのか、玄」
「…否、…」
問いかけられた男は歯切れの悪い返事をし視線を落とした。どうやら小角玄もそこまで聞いていなかったらしい。こちらからでも驚いているのが伝わる。小鬼ちゃんがチッと舌打ちをした。
「早まりやがって…これじゃあ安部の介入した意味がねェ。戦争になるぞ」
「そうなる前に艮くんを呼び戻す」
「監視されてて出来るわけねェだろが」
「既に私の下僕としているとゆうのはどうだ?多少は融通が利くぞ」
「使い魔のひとつも操れねェ、無能扱いされンのがオチだよ」
「それは嫌だ。やめよう」
安部が即答する。
「本当に艮くんから何も聞いてないの?アンタに聞きたい事があるから会った筈なんだ」
小角玄の眉根が寄る。絶対に聞いている筈だ。艮くんはあの日、何かを聞いたから小角玄に会いに行ったのだ。探し出すヒントはこの男の記憶に掛かっている。
「…話したのはひとつだけ」
「なに」
「つがいで生まれる事が運命なのかとゆう事…」
「…つがい?」
「俺と覚が近しい関係で生まれたのは偶然なのかを知りたがっていた…前鬼と後鬼がつがいとゆう事もご自身で調べていました」
小角玄がひとつひとつ言葉にしながら顔を曇らせてゆく。その場にいた全員がその言葉を聞きながら同じ結論に達していた。でなければ全員がこんな険しい顔などしない。
「……まさか…」
「待て待て待て!今まで何の音沙汰も無かったんだぞ!?」
「あり得ない話じゃねェ…酒呑童子の血さえ途絶えて無かったんだからな。 」
「…つまり艮くんに会いに来たのは…」
「茨木童子……酒呑童子のつがいと呼ばれた鬼の末裔だ」
小鬼ちゃんがハッキリとその名を呼んだ。言葉にすると酷く簡素だがそんな簡単な話じゃない。
「茨木童子…実質、No.2の鬼だぞ」
「自ら近づいた、て事は酒呑童子の血族と違って自分の立場を解ってンな」
「…よく今まで身を潜めていましたね」
「酒呑童子の末裔が生き残ってるのを知っていたのかもね。…で、力が目覚めるまで待ってた」
そして目覚めたのだ、艮くんが。酒呑童子の末裔として。今更ながら力づくでも止めなかった事を後悔した。そんな危険な人物だと解っていたら…。
「そんな顔すンじゃねェ」
「…」
「反省なら後にしろ。今はあの阿保を探し出すのが先決だ」
「酒呑童子には監視をつけてるのでは?」
「撒かれてるかも。ウチの連中は使えないのが多いし、相手は鬼の匂いを消す何かを持ってる」
「…そんな物が?」
「知識も知恵も向こうが一枚上手…結構な話じゃねェか」
可愛い顔からは想像も出来ない下衆な笑みを小鬼ちゃんが浮かべた。
「そうゆう計算高い野郎の鼻を明かすのはサイコーに楽しみだ」
「それに関しては僕も同意見だね」
僕を甘く見て目の前で艮くんを唆し攫った罪は是非とも償って頂きたい。
「…こやつら一緒に行動させて良いのだろうか」
安部の引いた声が聞こえるが知った事ではない。
「…俺も手伝います」
「今回は玄が見逃したのもあるから協力してやらァ」
「頼んでないけどね」
だがこの二人の実力はよく知っている。下手な助っ人を呼ぶより数倍マシだ。
「私も…、」
「オメェは家で待機してろ」
「え~!」
「主に何かあったら困りますからね…」
安部の実力不足は前回の艮くんとの戯れ合いで察した。もしもの事を考えると正しい判断だろう。やはりこの二人も安部の下僕なのだ。主の安全を優先する。
「もしもの時は全員を叩き起こして結界を貼れ。解ったなァ?」
「わ…解った」
脅しだ。…脅しのまま終われば良いけれど。
「行くゾ」
「…当てがあるの?」
「オレらの情報網甘く見ンじゃねェよ。来い」
来たばかりの安部家を去る。
そうして長い夜が始まった。
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