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王城に戻ってから、オレもツグト君もオレの部屋に閉じこもった。
裏庭の隅で剣の素振りしたりはするけど、外に出るのはその程度で、図書室通いもなくなった。
ツグト君の顔から、皮肉気な笑みもなくなった。
ちっ、と舌打ちして暗い目でたたずみ、黙り込んだまま過ごすツグト君。オレ付きの侍従や、城詰の近衛兵の態度は特に変わらないけど、それだけじゃ彼の憂いを払えない。
ツグト君が気にしてるのは、街で見たみんなの態度の変わりようだろう。ここでのみんなの態度も、その内変わるんじゃないかって思ってるみたい。
もしかして、昔もそうだったのかなって、ちょっと思う。
魔王を斃し、魔族も魔物も退治して、世界に平和をもたらした勇者様。魔王に匹敵するって言われた力は、確かにスゴイ。オレなんて到底太刀打ちできそうにない。
けど、それは素直に称えるべきなんじゃないのか?
スゴイことを成したんだから、誇っていいんじゃないか?
今回の戦争だって。あんだけの兵力差があったのに勝てたのは、完全にツグト君のお陰だ。残虐な侵略国を討ち払えたって、勝ち誇っていいのに。なんでツグト君は辛そうなんだろう?
将軍や兵士たちの奮闘を称え、戦勝祝賀会も行われたけど、オレもツグト君もそれに出席しなかった。
「まさか呑気に出ろって言わねーよな?」
暗い目をしたツグト君にそう言われたのもあるし、オレ自身、出席するのが怖かった。じーちゃんも「出なさい」とは言わなかったから、きっとそれで良かったんだろう。
元々パーティとか、華やかな催しには縁がない方だ。
城の大広間からの音楽もざわめきも、王城の隅っこにあるオレの部屋までは届かない。
ツグト君の噂も、届かない。
祝賀会にはきっと、今回援軍を出してくれた領主たちも来るだろう。援軍の将軍とか、主だった軍人も来るかも。その人たちが、ツグト君のことを何て話するかは分かんない。
けど、例え誉め称えられるだけだとしても、今は聞くのが怖かった。
オレのことなら別に、何を言われたって今更だしいいんだけど。ツグト君のことを色々言われるのは、聞くのが辛い。
ツグト君のこと、大事だから余計に辛い。
けどそれはツグト君本人にも言えなくて、ただ黙って側に寄り添うしかなかった。
戦いについての顛末は、同行した将軍がじーちゃんに口頭で報告して、それから報告書も出してくれた。
報告書にはオレも目を通したけど、事実が淡々と書かれてて、どこも文句のつけようがなかった。ツグト君への態度はよそよそしかったけど、将軍は彼の功績を認めてるみたい。
オレも後で個別にじーちゃんに呼ばれて、話を聞かれた。ただ、ツグト君は一緒には呼ばれなかった。
「お前には辛い役目を押し付けてしまったか?」
じーちゃんに後悔してるように言われて、そこはキッパリ否定する。
「オレ、別に辛い事なんてないよ。『鍵』になれてよかった」
「そうか……」
オレの返事に、苦そうな笑みを浮かべるじーちゃん。将軍はオレのこと「贄」だって言ってたけど、オレが選ばれたのは、いらない子だからってだけじゃないのかも。
それどころか、今回の戦勝の功績を受けて、オレの王位継承順を上げようって話も出てるみたい。今の19番目から5番目くらいに、って。一気に底上げされ過ぎて、「なんで?」としか言いようがなかった。
オレ、成人したら王族を抜けるつもりだったから、そういうこと言われてビックリした。
まだ決定した訳じゃないって聞いてホッとしたけど、身辺に気を付けるようにとも言われると、ちょっと怖い。
「えっ、オレは兵士になりたいから……」
首を振ってそう言ったけど、成人するまでは王族のままな訳だし、今の内に継承権を放棄することもできないみたい。
身辺に気を付けるようにって、一体どういうことだろう?
「だが、勇者殿の『鍵』であることは、お前の助けになるだろう」
「鍵」を引き受ける時に言われた言葉をもっかい言われ、君主であるじーちゃんの顔を見つめる。
「……どういう意味?」
オレの問いには答えずに、じーちゃんはオレの頭を軽く撫でた。
「お前には悪いことをしたと思ってる」
それは、オレの両親を勘当したことなのか、オレを王族として引き取ったことなのか、末席に置いてたことなのかは分かんない。
ただ、じーちゃんはオレの祖父である前に国王だから、きっと思い通りにいかない事もあるんだろうと思った。
じーちゃんの話をツグト君に伝えると、「そりゃ大変だな」って苦笑された。
「19番目から5番目って。お前、暗殺に気ィつけろよ」
「はっ? 暗殺っ!?」
まるで縁のない話でビックリしたけど、有り得ないことでもないみたい。「今日からはオレが毒見してやるよ」って言われた。
「オレは毒でも死なねーからな」
「えっ、そんな……」
いくら無敵の勇者様でも毒までは、って思ったけど、ホントなんだって。
「死なねーっつーか、死ねねーっつった方が正しいか」
ぽつりと漏らされた呟きに、一瞬昏い沈黙が漂う。
毒でも死なないってどうやって知ったのか、それを訊くことはできなかった。
「まあ、オレの『鍵』であるお前を殺そうなんてヤツ、今後は出ねぇと思うけどな」
久々に見た皮肉気な笑みに、ドキンと心臓が跳ね上がる。
「ここで『鍵』がなくなりゃ、オレは自由だ。今のオレを自由にしようなんてヤツ、いねーだろ?」
唇の片方を歪め、ツグト君はふんと鼻を鳴らす。
今、オレっていう「鍵」がいなくなれば、ツグト君は自由にどこでも行けるんだろうか。でもツグト君はそれを望んでないんじゃないか。
鎖骨の下の痣がチリッと痛んだ気がして、そっとそこに手を当てる。
対価としての錠前の痣は、今もオレの胸にあって。オレの身を守りつつ、ツグト君をここに縛ってた。
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