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* Scent.3 *
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記憶を巡らせるも、男の名前や顔に心当たりなどなかった。
あまりに見つめてしまうのも失礼だと思い、立花は車窓より流れる景色のほうへ視線を移した。
灰一色だった冬の寂しげな情景は、都心へ近付いていくうちに少しずつ賑やかになる。
色とりどりの灯りが視界に入るだけでも、身体はじわりと暖かくなるような気がした。
「何か気になるものでも見つけたかい?」
「え……えっと、特に」
所在なさそうにしていた立花は、そう声をかけられて視線を車内へと戻した。
「遠慮などしなくていいよ。これから私達は家族になるのだからね。立花の感じたことや好きなものをぜひ教えて欲しい……年頃の男の子には難しいか」
「……僕の話でもいいんですか?」
ゆっくりと頷く瑛智に、立花は自身がオメガと診断されてからの日々を偽りなく話した。
そのときはただ同情でもいいと思った。
自分という存在を否定せず、認知してくれる人が欲しかったのだ。
「辛かったね、立花。よく頑張ったね」
「ん……」
毎日泣いても枯れなかった涙が、何度拭っても掬っても際限なく溢れてくる。
震える小さな背中を、瑛智はずっとさすっていてくれた。
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