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* Scent.7 *
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立花の名字が変わったとおおっぴらに宣言してから、立花はたくさんからかわれている。
嫌みを含ませて言うと、的外れな謝罪とサプライズに欠けた言葉を返された。
それから誤魔化すように手を繋いできたから、不機嫌な振りはもうそれ以上出来なくなってしまった。
「いいんですか?」と聞くと、涼風は不思議そうな顔をして、立花を見た。
マフラーで顔の半分は隠れているし、大学の隅っこのカフェで働いている立花の存在は知れ渡っていないだろうが、院生の涼風は違う。
往来する車の存在が気になってしまい、立花は落ち着きなく視線をうろうろさせた。
確かな強さで握られている手から、優しい体温が溶けて立花のほうにも伝播する。
番として、恋人として──涼風に認められている。
しっかりと触れられた手に、勝手に意味を見出だしているだけかもしれない。
外で手を繋ぐ行為に、そんなに大きな意図は込められていないだろうけれど、立花にとっては一生の思い出になるくらいに、幸せだった。
「論文の完成、おめでとうございます。大学に通うのもあと少しですね」
「ありがとう。立花君がいなかったら、無茶をして途中で倒れてたよ。期限だって守れなかったかも」
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