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よりによってまた皆の前であのサルは何のつもりだ。
昨日みたいに人気のない廊下で俺を捕まえればいいだろう。
わざわざ教室まできて呼び出すとか何考えてんだ。
真弓には知られたくなかったのに(余計な心配かけたくないから)、てか誰にも知られたくなかったのに。
あのボスザルと接点を持っているという事実を。
「…はぁ」
チャイムを無視してトイレの個室でため息の連発。
今頃クラスの奴らはアレコレ詮索してるに違いない。
この不良学校のボスと、冴えない平凡なこの俺がどんな関係にあるのか。
というか、間違いなく皆心の中で手を合わせてんだろうけどな。
一体何をやらかしたんだアイツは…、てとこだろうか。
まぁ、かわいそうな武藤君、でオチがつけばそれが一番だ。
あのボスザルに求愛されてるなんて死んでも知られたくない。
好奇の目にさらされるのだけは勘弁だ。
目立たずひっそりと生きていきたいんだよ俺は。
「…はぁ」
またため息一つ。
とりあえず教室に戻ろうと、俺は重い重い腰を上げた。
廊下に出ると、ちょうど授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
授業中だろうがざわざわした空気が静まる事はない為、その雰囲気で授業中かどうかを探るのはこの学校では難しい。
チャイムが鳴ってもざわついた空気は何一つ変わらなかった。
「ユースケ」
不意に呼ばれてギクリと体が強張る。
背後から聞こえたその声にゆっくり振り返れば、そこには心配そうに眉を寄せた真弓がいた。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ、うん…」
「あの先輩と何かあったのか」
「や、別に…」
「だったら何で呼び出しなんてされるんだ」
「さぁ…」
「祐介」
「う…」
真弓が怒ってる。
その低い声音につい萎縮。
なんだよ同類のくせに!
怒ると怖いなんてそんな荒業ずりぃぞ!
俺もキレたら怖いんです的に一目置かれたい。
そう、真弓はキレたら魔神化する。
普段はヘタレのくせにずるいんだ。
だから知られたくなかった(心配かけたくないからとか嘘ですすみません)。
俺がボスザルに求愛されて困ってるなんて知ったら、絶対このアホは直談判しに行くだろう。
多分男が男に求愛という部分をコイツは問題視しない。
俺が困ってるというところを重大視するんだ。
うん、いい男なんだ。
ヘタレとか嘘なんじゃないかと思うんだが、子犬に飛び付かれて腰を抜かすなんてのは立派なヘタレだろう。
え?俺のヘタレとはまた種類が違う?
「俺も一緒に屋上行くよ」
「それはいい!大丈夫だから、反感買ってるとかそんなんじゃないから」
むしろ好感持たれてますってゆう…。
「だったら何でそんなビクビクしてんだ」
「べ、別にビクビクなんてしてない」
「友達じゃないのか、俺達」
「う…」
またそんな、そんな切ない目で俺を見るな…!
コイツも一癖あんだよなぁ、変にこう、熱いというか。
まぁ、大事に思ってくれてるのはありがたいし嬉しいんだけどさ。
いくら友達相手でも、誰にも言いたくない事とか知られたくない事ってあると思うしあってもいいと思うんだ。
ボスザルとの事は俺にとっちゃ誰にも知られたくない事。
真弓にはわかんねぇかなぁ。
なんせ熱血漢だもんなぁ。
子犬が怖いくせに。
「と、とにかく、昼休みは1人で大丈夫だから」
「本当に大丈夫なんだな?」
「うん、大丈夫」
「…そうか、わかった。けど、何かあったら相談くらいしてくれ」
「ん、ありがと」
いいヤツなんだよ、本当に。
無駄に熱くなければ。
キレて魔神化なんてしなかったら、もっと友達もできたんだろうに。
いつだったか、授業中、あまりにもうるさいクラスの連中に真弓がマジ切れしたあの日から、比較的俺のクラスは授業中のみ静かになるようになった。
授業に真面目だから頭もいいのかと思ったが、バカがつく高校でトップなんぞ取ってもたかが知れてるだろ。
でも真弓は勉強熱心だった。
できる事を全力でやり切る男だった。
やっぱりいい男だわ。
そしてクラスに戻ると、案の定わらわらと俺の周りに人だかりができる。
全ての顔には憐れみがたっぷり。
やっぱりボコられるとか思ってるらしい。
中には餞別とばかりに飴玉をくれたヤツもいた。
どんな関係だと聞くヤツは1人もおらず、皆は口々に意味のわからない激励を俺によこした。
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