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距離①
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あんなにドキドキしていた今朝。
けれど今は、こんなにもドキドキしている。
同じドキドキでも、全然違う。
今のこの鼓動は、凄く気分が悪くなった。
屋上での一件以来、ボスザルの口数が明らかに少なくなった。
話しかけても、ん、とか、ああ、とか、それくらいしか返ってこない。
心此処に在らずなのは一目瞭然で、段々俺も言葉をかける事をしなくなっていた。
マンションに戻り、二人きり。
夕飯どうしようかと思ってボスザルに聞いてみても、案の定何でもいいと一言だけ。
後はソファでビールを呷り、時折思いついたように溜め息を零す。
その視界に俺は映っていない。
ぼーっと、魂を抜かれでもしたように、ボスザルの覇気はゼロに等しかった。
こんなボスザル見たことない。
意識が完全にどっか飛んでってる。
きっと俺の存在も感じていない。
ここにいることすら知らないんじゃないだろうか。
そう思ったら、なんだか凄く悲しくなってきた。
そんな自分も、冷蔵庫を開けたままフリーズしていた事に気付く。
慌ててしめると、まだ無意識の中にいるボスザルに思い切って声をかけた。
「あの…」
「ん」
思いがけず目があって、困惑する。
やっと重なった視線なのに、俺は自らふいっとそらして。
「な、なんか、買ってきます」
「ん、飯か」
「はい…」
床に視線を貼り付けたまま、頷いた。
というか、一人で外出は厳禁、というのは今も当然健在だ。
だからまあ、買ってきますっていう台詞はちょっとおかしいんだけども。
果たして今のボスザルがそこに気付いてくれるのかどうか。
行って来いって言われたら、まあ、行くしかないんですけど。
「祐介」
「え…」
ふいに呼ばれて、頭が自然と持ち上がる。
やっと俺に意識が向いてくれたと嬉しくなって、気を抜けばぱたぱたとしっぽを振る子犬のように駆け寄りそうになった。
そして目が合うなり手招きをされ、心なしか小走りになる自分がイヤになりながらも、俺はその脚の間へと身をおさめた。
「今日は何か、食欲わかねぇ」
「え…」
抱き締めた俺の髪に鼻を埋めたと思ったら、そんな事をぽつりと言われて。
何も食べないつもりなんだろうかと、聞こうとしたら口を塞がれた。
「ん、っ…」
ゆっくりと舌を滑り込ませ俺の舌を絡め取ると、今度は自分の口内へ引っ張りこもうと吸い上げてくる。
そうなれば、口が閉じられず、唾液が端から垂れ落ちそうになった。
「あ…、っ、」
そんな事も構わず、ボスザルはなかなか俺の舌を解放しようとしてくれない。
自分の口内で丹念に味わうように俺の舌を甘く吸いながら、とうとう零れてしまった細く落ちる唾液を親指でぐいっとぬぐった。
「祐介」
「…は、い」
深い声音で呼ばれて、思い出す。
昨夜の爆弾発言の事を。
ちょ、まって下さい。
え、もしかしてもしかしなくてもこの流れは…。
全ての毛穴が全開したような気がした。
一気に汗でびっしょりです。
「お前を抱いてもいいのか、ここにきて迷ってる俺はヘタレだと思うか」
「へ…?」
しかし、その口から漏れた言葉は予想外のものだった。
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