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やっぱりおかしい。
屋上でのマダラとのやり取りの後のボスザルは、やっぱりおかしかった。
あんなに熱っぽく俺を抱くと宣言していたのに。
あんなにも艶っぽい視線で俺をあたふたさせていたくせに。
今のその瞳からはその全てが失われ、そして、狼狽するような色だけに染まっていた。
この人をこんな風にさせてしまうモノは一体何?
突然現れたマダラの存在?
それも一つあるだろう、でもきっと一番の理由は──
「何で、そんな事…」
「今ならまだ間に合うからだ」
間に合う?
言われた言葉の意味が理解できず、俺の首が僅かに傾いた。
「お前を、手放す事が可能って意味だ」
ドクンと、一度だけ大きく心臓が跳ねた。
その言葉の真意を見出そうと、間近にあるその眼をじっと見詰め返す。
手放す?
誰が?
誰を?
まだしっかりとその言葉の意味を理解できていないのに、目の前の整った輪郭が、段々とぼやけていく。
……今更?
そして、目の奥がどんどん熱くなっていった。
「…祐介」
俯いて、涙をこらえる。
そんな俺の顔を再び自分に向けさせようとボスザルの両手が頬に当たるけど、だけど俺はその顔が見れなくて、小さく抵抗した。
いや、見れないんじゃなくて、見たら言えなくなると思ったから。
今この瞬間に沸き起こった憤りと、焦りと、そして本音が。
「何で、そんな事言うんですか…」
「………」
「全力で護るって言ったじゃないか…っ、俺をこんな危険な目にあわせといて、今更っ、今更放棄したいとか…っ、」
「違う、祐介」
「違わないじゃんっ、躊躇するって事は…、そういう意味じゃないか…ッ!」
その手を振り払い、勢い良く立ち上がる。
目からはもう、涙が遠慮なくだだ漏れになっていた。
「祐─」
「いつもの自信に満ち溢れた先輩はどこ行ったのさ…、俺を護るって言ってくれた先輩はどこいったんだ…っ、こんなの、本当の、俺が好きになった先輩じゃ…っ、」
わかってる。
無責任から生まれた発言じゃないって事くらい、俺にだってわかってる。
きっと、躊躇してしまう理由がきちんとあって、それはきっとどうしようもないくらいにボスザルを苦しめてきたもので、だから、わかる、わかってるけど…!
「祐介、ごめん」
手を掴まれて、戻される。
瞬間俺は、声を上げて子供のように泣いた。
しっかりと抱き締めてくれるその腕が愛しくて、恋しくて、あったかくて、だけど辛くて。
デコピンが言ったように、きっとこの人に俺のような存在はあってはならないんだ。
俺のせいで、もしかしたらボスザルは立ち直れない程に深い傷を負う派目になるかもしれない。
そう思ったら、抱き締め返そうと動いていた俺の手が止まった。
マダラの存在も理由の一つかも知れない。
だけど何より俺の存在が、この人から自信を喪失させているのだと思った。
いつものように強気で構えていられなくなる程に、きっとこの人は、過去に深い傷を負っている。
根拠は何もない。
だけど、俺はそう感じていた。
だって、同じ事をしていると、マダラは言ったんだ。
俺から目を離さずに、そう言っていたんだ。
「悪かったよ、変なこと言ったな」
「………」
「忘れてくれ」
ぎゅっと、抱き締められる。
だけど俺は、やっぱり抱き締め返す事ができなくて。
俺のせいで、死神は解散した。
その事実が、今になって漸く俺の肩に重くのしかかる。
それが何を意味するのか。
どういう事を知らしめるのか。
きっと、俺が考えてるよりも遥かに大きな意味を持っているに違いはなかった。
「先輩…」
「ん」
「一つ聞いてもいいですか」
「ああ」
「俺らの関係を周りにきっぱりと否定できるとしたら、それはどんな事ですか…」
「祐介?」
「…ちょっと、気になっただけです」
「………」
少しの間を置いてから、ボスザルが口を開く。
「お前が死ぬ以外、もうねーよ」
「………」
「口でどれだけ言っても、行動でどれだけ示しても、もう不可能だ。一度認めたもんは、もう覆らねぇ」
「……じゃあ、さっき何であんなこと、言ったんですか」
ボスザルが俺を手放したって、それを証明する手段がないんだったら意味がない。
「だな。お前を抱いても抱かなくても、変わんねぇよな」
「もし…」
「ん」
「証明する手段があれば、…俺を、……手放しますか?」
本音を聞きたい。
だから、下げていた頭を持ち上げて、その瞳を覗き込んだ。
一瞬困惑したように揺れ動く眼。
イエスと答えられても、俺は別に傷ついたりはしない。
そこにはきっと、この人なりの思いがあって、俺の為に決断する事だろうと思えるから。
少しの間を置いた後、ボスザルはふっと笑みを零し、そして俺の頭を抱え込んだ。
「そうする事が最善だとわかっていても、きっと俺にはできねぇだろうな。証明できる手段があったとしても、それを選択する勇気が俺にはない」
「………」
「マジ、変な事言って悪かったよ」
自分の中で何か答えが出たんだろうか。
ボスザルを纏っていた暗い空気が、少しずつ晴れていくのを感じ取れた。
「でも…」
「何だよ」
再び顔を持ち上げる。
そして俺は真剣に言った。
かっこつけとかそんなんじゃない。
ホントに真剣に。
「もし俺の存在が先輩にとって邪魔になるんなら、遠慮せずに俺を消してもらってもいいですから」
真摯に、伝えた。
ボスザルはきっと、俺を守る為なら命だってかけてくれるに違いない。
だから自分もまた、その人を守る為なら命を張れるんだと、知って欲しかった。
その想いは伝わったのか伝わらなかったのか。
そう言葉にした後、ボスザルの表情が一気に険しくなった。
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