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完結後の世界 =8(不器用な愛③)
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インターホンを押し、反応を待つ。
『はい』
あ、この声だ…
一言言うだけなのに、緊張と少しの怖さが入り交じって何も言えずにいたらそんな僕の様子を察したのか彰さんが代わりに話してくれた。
「すみません、こちらの施設長さんに会いたいのですが」
『施設長は私ですが、どのような御用でしょうか』
「あ、えっと…」
僕が言わなきゃと思うのに、どう説明したらいいのか分からない。
「ねぇせんせー!僕も入りたいのー!いーれーてー!」
言い留まっていたら男の子が間に入って門を開けてくれるように言ってくれた。
『その声は、健くん?待っててね、今開けるよ』
そういった後ガチャっと音がしたと思うと門がガラガラと開き始めた。
ケンくんと言うらしい男の子は得意げそうにこちらにブイサインを向けた。
あぁ、今のはこの子が助け舟を出してくれたんだ。僕も照れながらブイサインを向けた。
施設の中に入ると、懐かしさの中に見覚えのないものもあって、僕が変わったようにここも変わっていくんだと何故か思いに耽った。
「あ、ここだよここー!せんせーがいつも居るとこ」
ケンくんの案内でいつの間にか施設長の居る部屋にたどり着いていたみたいでケンくんはなんの躊躇いもなく中へ入っていく。
僕はちらっと彰さんの方を見たあと覚悟を決めて中へ一歩踏み出した。
目の前に広がるのは、
記憶より老けた施設長と、さっきの男の子が楽しそうにおしゃべりしている風景。
あの頃のここは、こんなに優しい雰囲気じゃなかった。
もっと殺伐として、ぼっちの僕になんて誰一人として見向きもしない。
そんな、場所だったのに。
今、男の子と楽しく話をしてるあの人は誰?
いや、違う。施設長なんだよね。分かってる。分かってるのに、受け入れられない。
そんな優しい顔をするような人じゃなかった。
そんな顔できるなら…どうして僕にはその顔を向けてくれなかったの?
「大丈夫?蒼太」
隣からの声ではっと我に返った。
「…あ、ごめんね。ちょっと記憶と違ってびっくりして」
彰さんは優しく背中を撫でてくれた。
僕を励ましてくれているんだと分かって、少し落ち着く。
「…お久しぶりです、施設長」
「ん?君は…ごめんな、ちょっと老眼で…えっと眼鏡はどこにやったかな」
せんせーここだよって男の子が眼鏡を指さし、あぁそうだったと施設長が耳にかける。
その動作さえ時がたったのを感じさせるには十分で、脈が早くなったのを感じた。
「…もしかして、隼人くん?いや海くんかな。いや辰己くん?それか…蒼太くん?」
きっと、施設長の中で僕は昔相手したことのある子供の1人で、記憶にすら残らない存在だったのかもしれない。
最後の"ソウタくん"だって僕の事じゃないかもしれないし。
「…風上蒼太です」
「あぁやっぱり、大きくなって…元気だったかい?」
「はい…そちらこそ」
「いやいや私はね、もう認知症が発症してね…この施設だってもう子供は十もいかないよ。はて今日はなんの用事で?」
しわが増えて、こんなに穏やかに笑う施設長を見たことがあっただろうか…
「あの…僕の通帳にお金を入れましたか?それも結構な額を」
「…あの蒼太くんも、もう通帳を管理する歳になったんですね。ええ、そうです。こんな端金…不必要かと思ったんですが、あの頃の私は経営だけを考えていて…子供の気持ちなど二の次でした。子供を育てる施設長としては失格、えぇ失格です。だから、蒼太くんのSOSに気づくことができなかった…いや、気づいていたのかもしれません、それを見て見ぬふりをしたんです。蒼太くんが義務教育を卒業する歳、他の子達は私が何か言ったわけでもなくこの施設を出ました。親のもとへ行く者、働くもの、様々でした。だから蒼太くんもそれでいいと思っていた、いたんです」
少し俯きながら話す施設長の顔は見えなかった。
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