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第14章ー6 マエストロ
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「お待ちしておりました」
迎えてくれたのは、眼鏡の長身の男だった。
「お電話では何度か。初めまして、関口圭一郎のマネージャーをしております有田と申します」
きりりとしているイメージだが、視線は優しい。
澤井は挨拶をした。
「こちらこそ。梅沢市役所教育委員会事務局長の澤井です」
「同じく梅沢市役所文化課振興係係長保住です」
「ご足労いただきました。マエストロは今晩、ドイツに出発なものですから。無理を言って申し訳ありませんでした」
豪邸。
玄関はロック式の自動ドア。
両開きの扉をくぐり、中に入ると広い玄関が視界に広がる。
目の前には中庭だろう。
白い砂利が敷かれた侘び寂びの庭園が見て取れた。
靴を脱ぎ、有田に続いて中を歩く。
三人が並んでも余裕な広さの廊下。
さすがに保住は内心呆れる。
田舎の一公務員には、一生かかっても手に入らないような豪邸だ。
「マエストロ、梅沢市役所の方たちがいらっしゃいました」
有田に案内された部屋は、グランドピアノがある、広々とした応接間だった。
ソファに座り、退屈そうにしていた男は、声を聴くとぴょんっと跳ねて三人の元にかけてきた。
「おお!お会いできて嬉しい!関口圭一郎だ!」
声が大きい。
彼は痩せていて長身。
針金みたいな男だった。
皺の刻まれかたからして、年相応なのだろうが、目がキラキラとしていて少年のようだ。
澤井の手を両手で握り、それから肩を抱き寄せてハグをする。
さすがの澤井も苦笑いだ。
「先生、私たちは日本人で、そう言ったご挨拶には馴染めませんよ」
「すまん、すまん!ついうっかり……」
パッと手を離し、圭一郎は笑う。
それから、保住を見てこれでもかと笑顔を見せた。
「なんと可愛らしい。息子の嫁に頂きたい」
「振興係の保住です。申し訳ありませんが、男です」
「なんと!!だめか?」
圭一郎は、「男も女も関係ないのだかな……」とブツブツ呟いた。
奇人。
変人とでも言うのだろうか。
自分が型にはまりすぎているのかもしれない。
そう思ってしまうほど、彼は飛びすぎている。
「教育委員会事務局の澤井です。本日はお時間を頂きましてありがとうございます」
「澤井さん、そんな堅苦しい話は無しにしましょう。目の前の問題を何とかしなければなりません」
「そうなんです」
澤井に促されて、保住は昨日の顛末を語る。
向かいのソファに座っている圭一郎と、その横で直立している有田は頷いていた。
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