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第14章ー19 遊びか本気か
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上手く行くとは思っていない。
ハンコをポンと押す。
20時を過ぎた。
店じまいか。
そう思っていると、保住が顔を出した。
「宜しいですか」
彼がしおらしいのは珍しい。
澤井は苦笑して招き入れた。
「お前がそんな態度なのは、下心がある時か。悪い知らせだな」
「良いのか悪いのか。あの……」
少し視線を彷徨わせてから、澤井を見る。
「やはり、あなたとの関係、終わりにしていただきたい」
「職場でがっつりプライベートな話をするものだな」
「すみません」
「まあ、定時は過ぎたしな」
澤井は、ハンコを押す手を止めることなく続けた。
「田口と和解でもしたか」
「和解と言うか……」
「つまらんな。時間の問題とは思っていたが、こう早いとは。田口も我慢が足りないものだ」
「澤井さん?」
澤井は保住を見る。
知っていた?
澤井は、こうなることを知っていたのか。
田口の気持ち。
この男は知っていたのだ。
そして、黙っていた。
「あの男は、真面目で一本通っている割に、相手のことを尊重し過ぎる。恋愛は、相手のことばかり考えていたら、何も進まないものだ。だから、おれが手伝ってやったのではないか」
弄ばれていたということか?
「澤井さん、あなたは……」
保住はムッとした顔をする。
「まあ、おれも楽しんだ。予想外に早いから大して面白くもなかったが」
「呆れますね」
「しかし、それで仲直りしたのだろう?ああ、それ以上になれたか?感謝してもらいたいものだな」
保住は澤井の側にいき、彼を見る。
口では悪態だが。
彼の気持ちは何となく分かってしまう気がして。
「澤井さん。あなたは、どこまで本気なのです?」
「それを知ってどうするのだ?本気なら、おれのものになるのか?」
「それは、出来かねます」
「なら聞くな。何も与えられない奴は交渉の席にも着けないぞ」
「それは、そうですが」
澤井はそっと保住の頬に手を当てた。
「おれは、オペラが成功したのを横目に異動だ。お前と田口は、もう一年ここに残れ」
「何を……」
「おれが副市長になったら、お前たち二人には手伝ってもらいたいことが控えている。せいぜい仲良くして、田口を側に置いておけ」
ふっと軽く笑い、澤井は手を引く。
「さっさと帰れ。おれも帰れないではないか」
「分かりました」
彼は頭を下げて退室していった。
珍しいことだ。
あんな男でも、関係を持った相手に情を移すのだろうか。
澤井は仕事を辞めて黙り込んだ。
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