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90.復活!4
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夕飯の準備をして、高塚と他愛もない話をしていると、蒼が帰宅した。
「ただいまー」
「あ、蒼ちゃんだ」
高塚はバタバタと出て行って、蒼のお出迎えをする。
「お帰り」
「あ、高塚くん」
「どうも。お邪魔していました」
「ううん」
少し、遅れて圭が姿を現す。
「お帰り。蒼」
「圭!……どうだった?」
病院の件か?
圭は笑う。
「大丈夫。帰ってきて楽器を持ってみたんだけど。結構、いい感じかも知れない。午後からは少し練習していたんだ」
「本当!?」
蒼は不安そうな顔をしていたのに、一気に顔色を明るくした。
「うん。心配かけたな。蒼」
「ううん!おれはなにも……」
何度も首を横に振る蒼。
その頭を撫で、圭は思い知る。
やっぱり。
蒼に喜んでもらえるのが一番嬉しい。
高塚には悪いけど。
自分にとっての一番は蒼なのだから。
「どれ。ご飯にしよう。高塚に手伝ってもらってご馳走作っておいたから」
「うん!」
蒼はわたわたと靴を脱いで、そのまま奥に入っていく。
それを見送ってから、高塚と圭は居間に入る。
「よかったね。蒼ちゃん。元気でたみたい」
「そうだな。あいつが一番、心配してくれていたからな」
二人は満足げに顔を見合わせて、それから座布団に座る。
と。
その瞬間。
廊下がバタバタと騒がしくなり、スーツのままの蒼が顔を出した。
「ずるい!二人ばっかり!美味しいの食べたでしょう!!」
彼はシュークリームの箱を抱えている。
よく気付いたものだ。
甘いものに目がない蒼。
あの香りに誘われて、台所で見付けたのだろう。
鼻が利くものだ。
「食べたけど……。でも蒼ちゃんの分もありますよ?」
「あるってさ!これ、どういう風に分けろって言うの?二個しかないじゃない!!」
蒼はもんもん怒っている。
高塚は慌てて、自分はいらないと辞退した。
「おれはいりませんから。蒼ちゃんと圭くんとでどうぞ」
これで円満解決。
そう思いきや。
蒼は更に怒り出す。
「ちょっと!それじゃ、おかしいでしょう!?圭だけ二つ食べるってこと!?」
怒っているのはそこか。
圭は笑う。
「いいよ。おれはもう一個食べたから。二個とも蒼が食べればいいじゃない」
「へ?」
圭の言葉に、蒼は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。
「いいの?」
「いいよ。おれたちはもう頂いたから。蒼が食べればいい。ほら、そんなことで駄々こねないの。早く着替えてきな。先にご飯食べちゃうよ」
「あ!ちょ、ちょっと。おれも一緒に食べる!!」
「じゃあ、早くしな」
蒼は本気になって寝室に駆けて行く。
ばたばたしているとくっついていくのがけだもの習性。
彼も一緒になって、寝室に駆けて行った。
「単純ですね。蒼ちゃん」
一連の様子を伺っていた高塚は苦笑する。
「本当に。食べ物のことになるとすごいんだから。子どもと同じだよな。一つ多く食べたとか、どうでもいいじゃんって思うんだけど」
「でも、そういう蒼ちゃんが好きなんじゃない?」
「!」
圭は顔を赤くする。
素直な反応だ。
高塚は笑うしかない。
「はいはい。お惚気はいいですから」
「高塚!!」
「全く。ここに来るのはいいけど、終始、惚気ばっかだからなー。本当に嫌になっちゃうな」
「だったら来るなよ!」
文句を言いつつも、圭は高塚の分もちゃんと用意してくれる。
本当は、この場所が好きだ。
圭は仕事では厳しい顔を見せるけど、蒼の前だと普通の男に戻る。
自分と同じくらいの男なのだと実感できるのだ。
それに蒼。
彼には高塚も癒されている。
東京にいると、せかせかしていて、人の温かさなんてふと忘れてしまうときがある。
だけど、ここは暖かい。
圭も蒼もけだもも。
みんな、自分のことを受け入れてくれているのだ。
嬉しい。
ここにいると、自分が必要とされていることが分かるのだ。
だから、ここに来るのが止められない。
「間に合った?まだ食べてない!?」
蒼はばたばたとやってくる。
「まだだよ」
「よかったー」
圭の返答に、笑顔を見せ、蒼は座布団に正座する。
「ご飯はみんな揃わないと。だもんね」
「そう、だね」
みんなで、か。
本社では、昼食の時間なんてあってないようなものだ。
仕事をしながらの食事。
帰宅しても、家族とは時間がずれているので一人で夕飯を摂ることが多い。
あんまり、そんな日が続くと母親にも悪いので、途中で居酒屋によることも多くなっているのだ。
だけど、そんなときも一人。
いつも一人。
一人の食事ほど味気ないものはない。
「いただきます!」
嬉しそうに箸を持って、蒼は一人で食べ始める。
「おいおい。待っててやったのに、それはないだろう?」
「いいじゃない。みんな揃ったんだもん!」
高塚は笑うしかない。
「ほら。ぼさっとしてると蒼とけだもに取られるぞ」
圭にせっつかれて、視線を戻すと、けだもが自分の隣でじっとしている。
これは狙っている証拠だ。
隙のある人間をよく見ている。
取りやすいと思っているのだろう。
「やべ!いただきます」
圭と付き合うのは大変なことだけど。
こういう楽しみもあるし。
ま、いっか。
高塚はそう思っていた。
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