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「そうだな。…いつもは檻みたくでっかく見える癖にな。」
嶋の言葉を聞いて、相手は腹を抱えてけらけらと笑い出した。
「僕らを閉じ込める“檻”ね‼…いいね、嶋。なかなかにロマンチストだ。」
「…茶化すんじゃねぇ~。」
返事をしつつ、嶋は瞳を眇める。幾分か乾いた風が、さぁっと二人の間をすり抜けていく。
「…勉強。」
先に口を開いたのは、嶋だった。
「教えてくれて、あんがとな。助かった。」
言わなくては、と思っていた言葉が心からの重さを持って口から溢れ出る。
「毎日、こうして飯作ってくれているのも…感謝している。」
口を滑らしてから、しまったと嶋は眉を下げる。…紫はまた憎まれ口を叩くに決まっている。
「…ふぅん。」
嶋の勘は外れたらしい。紫は、心ここにあらずといった体で、目の前の同居人を見つめている。瞳の奥にちりっ、と感情の炎が灯る。
「僕こそ、ありがとうってアンタに言いたい。」
「え…??」
紫の思わぬ礼に、相手はキョトンとしている。…驚く以外の反応が考えつかない。
「僕は、ずっと君を見ていた。…三月のあの日、アンタがいなければ、ここに僕はいなかった。」
油蝉が唸る。天に向かって、まるでそこに巨大な何かが君臨しているかの如く。そいつに勝負を売るように、吠えたてている。
紫はらしくない動きで、体操服のシャツの襟ぐりをぐっと引き上げ、顎を拭う。野性味溢れる仕草に、嶋はぼんやりと彼がれっきとした男であると思い出す。
紫は続けて、机の上に置いていたお茶のペットボトルを一気に呷った。半分ほどゴッゴッと勢いよく飲み干すと、再び机に戻す。ペットボトルの水滴が、机の上にぽたぽたと伝い落ちる。
「あの日からずっと、アンタだけを見てきた。」
日差しはきついが、空気や吹く風はからりと乾いていて、気温もそう高くない。特別暑いわけでもないだろうに、紫は一声出すと小さく喘ぐ。喘ぐために浅く俯いた顎から大量の汗がぼたぼたと落ちた。忙しない呼吸音は、嶋の耳も微かに拾った。
「紫ちゃん…??」
嶋はようやく気がつく。紫が着ている体操服のシャツが、妙にぐっしょりと濡れている。
「だからさ、もう勘弁してくれよ。十分だろう??頼むから…もうやだよ…。」
「紫…‼?おい、紫‼」
嶋が椅子を蹴っ飛ばして、彼の元に走り出す。一拍遅れて、紫の上体が傾いだ。
「しま…。」
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