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混乱して、立ち上がるのと叫ぶのを同時にしてしまう。大きく手を広げて迎えに行くと、久方ぶりのΩは戸惑い、顔の前で手を左右に弱々しく振って、俯いてみせる。真っ赤に染まる耳たぶに、嶋は衝動的にかぶりつきたくなってしまう。抱きつく代わりに、嶋はΩの両肩をがっしりと掴んで、半ば強引に瞳を覗き込む。
「…紫ちゃん、オレからの手紙、読んでくれた??」
こくり、と浅くたどたどしくはあるが、紫が頷く。相手は、顔面の筋肉が弛緩するのを抑えきれない。…まるで数か月の別れを経た恋人同士みたいだ。安心からか。それとも、嘲笑か。笑いが込み上げて…でも、嶋は表情より先に口が動く。止められない。言葉を覚えたての子供みたいに、無性に同居しているΩの名前を呼びたくて仕方なかった。
紫は退院が許可されていると迎えに来た同居人に告げ、二人は隣に並んでのんびりと歩き出す。…歩幅が違うから、嶋はペースを合わせるためにいつも挙動不審になってしまう。
「紫ちゃん、身体大丈夫??」
目線を合わせようとすると、ぷいとそっぽを向かれてしまう。相変わらずの反応に、嶋は微苦笑した。
「…い、言い方が…。」
「えっ??何で??」
三秒後。嶋は再び同居人の顔を覗き込もうと試みる。
「ゆ、紫ちゃん??ボディービルダーの筋肉並みに逞しい想像力だとは思うけど、オレは別にそういう意味で言ったんじゃ…。」
「わ、わかっているっつの…っ」
ぶっきらぼうに返す頬に朱が滲む。参ったな、と嶋は視線を泳がせる。
(ひっさしぶりに会うリアル紫ちゃんの攻撃力、ヤバ…。αとしての自制心を働かせるのがやっとなんだけど…。)
小さな身体を抱きしめて、待っていたんだよと耳元で囁いたら、いじらしいΩの同居人は溶け落ちてしまうのではないかと嶋が考えてしまうほど、初心な反応を返してくる。
「体調は…その、万全だから。」
ツンケンしながらも、きちんと答えてくれる辺り、紫も同居人に会えて嬉しいのが伝わってくる。
(紫ちゃん、オレ、課題終わらせたんだよ。)
(紫ちゃん、オレ、部屋掃除しといたから。)
次は何を話そう。胸躍らせる本心に、嶋は気がつく。…紫にすっかり魅了されている。
これではまるで、外に出かけだした子供が親に“初めて”を報告しようと躍起になっているみたいだ。
「紫ちゃ…。」
嶋が名を口にしかけた、矢先。
互いの手の甲が、触れ合った。
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