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純真メランコリー 78
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学生ホールの硝子ドアを覗くと、綾世が奥の窓辺に立ち外を眺めていた。
意を決してドアを引き、中へ入る。
天気の影響で学生ホールは薄暗い。
ゆっくりと振り返った綾世の表情は、よく見えなかった。
見えないけど……冷ややかな視線を向けられているのではないかと、やっぱり怖くて、自然と顔が下を向く。
「……颯斗。おはよう」
声は……冷ややかには感じなかった。
「……おは…よう」
戸惑いながら挨拶を返した。
「昨日…あれから、みんなで話し合った」
「…………」
静かなホールに、綾世の声が響く。
「響ちゃんに『お祖父ちゃんを殺す気か!』って、怒られた…」
「えっ…?!」
思わず顔を上げた。
……なんだ、そのヒドい言い種!?
颯斗は綾世を助けたかった……。
なのに、逆にまた辛い思いをさせてしまったのか…?
「お祖父さん…甘い物を控えるようにって、ずっと医者に言われてたんだって……」
「は……?」
「櫻木の家に帰省してる時、僕が用意した和菓子を『おいしい』って食べてくれるから…そんなこと、全く知らなかったんだ」
「…えっ…と……」
それって…綾世がお菓子食べさせるから、祖父さんが死んじゃうってこと……?
綾世がゆっくりと近づいてくる。
お互い、表情が解るくらいの位置まで来ると立ち止まった。
「大切にしたい人が居るのなら、僕はもっとちゃんとその人のことを、よく知らないといけない…。って、……静母さんに言われた」
綾世は大きな瞳を真っ直ぐに颯斗に向ける。
「あれから、切々と僕に対するみんなの想いを聞かされた。お祖父さんは…泣いてた……」
普段厳しい頑固な祖父さんが、泣いたんだ……。
それほどに…綾世の誤解は、祖父さんにとっては辛いものだったのだろう。
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