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16.再会と同意
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形振り構わずという言葉はこういうことだろう。
店の隣の有料駐車場に走って行き、自分の車に飛び乗る。
――我慢できない。
信号で止まるのがもどかしい。
職場の正面玄関前の駐車場に車を停めて、職員通用口に回る。
夜勤の警備員へ挨拶をしながらも、息を切らして階段を駆け上がった。
「天沼さん!」
副市長室に駆け込むと、彼は驚いた顔をしていた。
言葉を失っているのか、詰まったように自分の名を呼ぶ彼が愛おしい。
「十文字……」
ずかずかと中に入り込んで、椅子に座ったままの天沼をぎゅーっと抱き寄せた。
「天沼さんの匂いだ……」
ふと鼻を掠める彼の香りに、心がざわざわとした。
この数ヶ月。
ずっと我慢してきた。
十文字の腕にそっと添えられる天沼の手のぬくもりに嬉しくなった。
「……仕事中だし」
「帰りませんか。帰れませんか?」
「……帰りたいけど。無理。明日までに会議資料揃えないと。後、三つ」
「副市長の秘書ってもう一人くらい増やしてもらえないんですか」
「みんな市長のほうで手一杯だよ」
「また。そんなこと言って。一人で抱え込みたいだけでしょう?」
「生意気言わない。新人の教育でてこずっているくせに」
――ぶうぶうと文句を言い返してくる元気があるなら、もう少し大丈夫かな?
そんなことを思い、十文字は苦笑した。
「なんでわかったんですか」
「見なくてもわかるし。デブでトロそうな新人とよく歩いているじゃない」
「見てるんですか。ストーカーですか」
「それはこっちのセリフ」
口では悪態ばかりなのに、視線が合うと笑みが溢れる。
ずっと会えないからこそ。
こういう時間が嬉しい。
「もう帰ってよ。仕事中」
天沼に肩を押されて距離が離れる。
「本気で言っています?」
「それは……」
――知っているよ。本気じゃないって。
頬を赤くして俯いている彼が、なにを考えているのか手に取るようにわかる。
「悪いとは思っていても、止められるんですか」
肩に添えられた手を取り、指を絡ませて握りこむ。
「十文字、あの……」
天沼の頬に添えた手を滑らせて、頭の後ろに添える。
そして、そっと引き寄せて唇を重ねた。
唇を舌で舐め上げると天沼の声が洩れた。
「一度だけ。キスくらい、いいでしょう?」
「十文字……っ」
少し離れたかと思われた唇が、再び重なる。
今度は深く。
久しぶりの感覚。
久しぶりの味。
天沼の細い首を掴んで更に引き寄せる。
一度味わったものをやめたくはない。
しかし、天沼に軽く肩を押されて、仕方なしに唇を離した。
「すみません。つい。困らせるつもりはなかったのですが……」
「本当だよ……。勘弁してよ」
「すみません」
謝ってはみるものの、気持ちは「すいません」なんて一つも思っていない。
それに天沼は、十文字の腕を掴んで離さないのだ。
「天沼さん?」
「ごめん。本当に。おれも我慢できないのに。だけど。どうしようもなくて」
――我慢できないって。天沼さんが? おれを求めてくれるのか?
そんな嬉しいことはないではないか。
十文字は副市長室の入り口の鍵を施錠した。
「30分だけ。くださいよ。時間」
「十文字……」
ネクタイをぐっと引っ張って緩めながら、十文字は舌舐めずりをする。
「でも……っ」
「誘った天沼さんが悪いです」
「誘ってなんかいないし!」
「そんな大声だすと、誰かに気がつかれますから」
「でも……っん」
抗議する天沼の口を塞ぐようにキスを重ねる。
舌を絡ませて、口の中を犯しながら、彼のネクタイを引き抜く。
「ダメって言われてもやめませんからね。最後までやらせてください」
まっすぐに天沼を見据えると、彼は黙り込んだ。
――同意。
離れていた時間に比例して募る思いは止められない――。
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