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超ビビった。
失恋したばかりの俺がいるのに、しかもクソ忌々しいほどに甘い空気を放出しだしたヤツらがいるのに、でっかい声でどんぐりコロコロを叫びだしたヤツがいた。
ギョッとして声のする座敷を見ると、子どもたちが悲鳴をあげて耳を押さえていた。
「あっくん、うるさい!」
「やーーー!!!」
激烈な音痴で、
どんぐりころころどんぐりこッ!!
おいけにはまってさーたいへんッ!!
どじょうがでてきてこんにちはッ!
ぼっちゃんいっしょにあそびましょうッ!!
・・・歌テロだった。
唖然として、店内がどんぐり野郎に注目したところで、当事者たちが笑い出した。
「アハハッ!暁さん、どじょうが逃げるって!」
「ブフッ!どんぐりだって、そのまま転げていきますよ。」
「ええ?!どういう意味ですか?」
俺を摘みだそうとしていた店主も吹き出した。
「風見さん、それは反則だよ!」
「ホホホ、そうよ。下手にも程があるわ。」
女将さんも一緒になって笑い出した。
「アハハ!しかも、どんぐりころころのあとは、どんぶりこ!」
「ええ?!小夜、本当?!」
「本当だよ〜!」
へぇ・・・。
悠は静かに豆知識を記憶した。
唖然としたのは俺だけじゃない。
クソ良い雰囲気になったタカたちは、そっと体を離して席に戻った。
はぁ。
そっとため息をついて立ち上がった。
「兄ちゃん、今度は普通にメシを食いに来な。江戸っ子ってやつを教えてやるから。」
「・・・。」
肩を乱暴に叩かれた。
愛情のこもった叩き方に、俺は泣きそうになった。
震える唇をひき結んで頭を下げると、店主は笑顔で送り出した。
何だよ。
何だよ、何だよ。
空回りのくたびれ儲け。
悲しい気持ちのまま店の外に出ると、さっきのカップルたちが心配そうに立っていた。
「・・・高校生だろ?クソして寝ろ。」
「えっと、お兄さん、気をつけてね。」
男の子から言われた。
無言で手を挙げて、店へと戻っていく。
タカは、アイツの腕の中に入った。
もう、手には入らないのだ。
・・・なにやってんだよ、ダセーなぁ。
街灯が揺れているのは、地球が回っているせいだ。
鼻水が落ちるのは、季節外れの花粉のせいに違いない。
あぁ、手には何も残らなかった。
求めたものは、消えていく。
久しぶりに恋をした。
そして、気持ちの行き場を失った。
どんぐりころころ どんぶりこ
おいけにはまって さあたいへん
どじょうがでてきて こんにちは
拳で瞼を抑えた。
バカみてぇ。
失恋して、どんぐりの歌を歌うなんて。
あり得ない。
こんな気持ちで歌うなんて。
「ぼっちゃん一緒に、遊びましょう。」
「何やってんの。」
え?
バーもぐらの店長が肩を竦めながら、俺のことを見ていた。
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