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ふふ。
思い出すたびに、吹き出しそうになる。
居酒屋はなれでお腹いっぱい食べ終わって、トオルさんが泊まっているホテルへ、ゆっくりと歩いている。
電車を使えばすぐだけど、いまはもっと一緒にいたくて。
貴志は、今日の出来事を思い出しながら、繋いだ手の温かさに緩んでしまう口元をそのままに夜風を感じていた。
もう少しすると、ごちゃごちゃと賑やかな街に出る。
「本当に電車に乗らなくていい?」
「うん。これでも営業してるから、歩くのは慣れてるんだ。」
そう、それに今日は足が地面から浮いているみたいに体が軽かった。
「トオルさんは?」
ぎゅっと握った手に力が込められた。
「幸せすぎて、100キロだって歩けそうだよ。」
ふふ。
初めて叶った恋。
幸せで、幸せで、倒れちゃいそう。
「久しぶりに聞いたどんぐりの歌が、あれなのは参ったな。」
ブフッ!
「まさか、風見さんがあんなに音痴だったなんて。」
「思った。なんでも颯爽と出来そうな人なのにな。」
ふたりの思い出に、どんぐりの歌が加わった。
きっと、ずっと思い出すと思う。
「みそ汁も、魚も美味かった。」
「でしょう?あったかい味だよね。」
何となく、愛情がたくさん入っているような気がしてしまう優しい味は、おばあちゃんのおみそ汁を思い出した。
トオルは、深呼吸した。
東京の空気は、綺麗なものではないだろう。
だけれど、やたら空気が甘くて、呼吸をするたびに幸せが体に満たされていく感じがした。
「・・・シャツ、洗ってかえすね。」
頬を染めて見上げてくる恋人は、とても可愛い。
「何で洗うの?」
そう聞くと不思議そうに首を傾げた。
「洗濯機?」
ふふ。
可愛い返事に、トオルは目を細めた。
「違うよ。貴志の着た服を、そのまま持って帰りたい。」
「あ、あ。・・・理由を聞いたんだ?」
「そ。」
真っ赤になった貴志の、手を揺らした。
「部屋に上がっておいで。そこで着替えよう?」
頷いたまま顔を伏せたウブな恋人は、とてもとても可愛かった。
・・・どうしよう。
急な展開で、頭が追いついていかない。
貴志は、顔があげれなくなってしまった。
想いが通じて、大切にすると言ってもらった。
天にも昇りそうなくらい、幸せで。
・・・シャツ、トオルさんが泊まっているお部屋で着替えてって言われた。
何か、えちえちな感じがして。
繋がれた手を見たあと、ゆっくりとトオルさんの腕を這うように見上げていく。
恥ずかしくて、耳から上を見れない。
ぱっと顔を伏せた。
貴志だって興味はある。
知識だけは、持っていた。
でも、キスもしたことがないのだ。
誰かと手を繋ぐのも、体育の授業でしか繋いだ記憶がない。
どうしよう。
胸がドキドキして、鼓膜が心臓の音で破れそうなくらいの大きさで聞こえている。
「・・・大丈夫、何もしないよ。」
びっくりして顔を上げた。
トオルは安心させるように、ゆっくりと笑った。
「大切にしたいんだ。怖がらせるようなことは、しない。」
「・・・うん。」
貴志に合わせてくれるという。
優しい声に、泣きそうになった。
「あ、りがと。」
くしゃりと頭を撫でられた。
恋人として、スタートラインに立った。
お互いを大切にすることを約束して、ふたりはトオルの泊まるホテルに入って行った。
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