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痔で沈み込んだキミちゃんこと小夜ちゃんは、床に両手をついて震えていた。
・・・ってか、
「お、お前!一回、お母ちゃんの産道に戻れ!!」
悠は、律に叫んだ。
「は?いきなり何なん?」
「れ、礼儀とか、一回、お母ちゃんから習い直してこい!!」
律は、ぽかんとした。
産道って、産道?
つまり、遺伝子が結合する時点まで戻れと?
「ありえねぇ。」
「なんだよ!一回、人吉に帰れ!!」
熊本県人吉市。(ひとよし)
そこは、悠と律の実家があった。
「お前ね、命の恩人にそこまで言う?」
「言う!キスしやがって、この野郎ッ!」
悠はめちゃくちゃ怒っていた。
自分をポイっと捨てたヤツが、なにをとち狂ったのか、今更、情熱的なキスをしてきた。
気持ち良いのが悔しすぎるし、おしっこの管を入れたシタも、パンパンになって痛すぎる。
本当は看護師さんを呼んで、強打したお腹の様子を見てほしいくらい傷が痛くて仕方がないけれど、今呼んだら、勃起しているところもバレてしまう。
とにかく、今、怒りを発散しないと、後々響きそうだった。
「もう!お前たちも帰れッ!みんな帰れッ!!」
しくしく泣いてしまいそうだった。
自分ばっかり、何でこんな目にあうんだろう。
振られて、立ち直って、今度こそって思ったらまた振られて。
その上、揶揄われて!!
馬鹿野郎っ。
「小夜、歩ける?」
「歩けるよっ!痔じゃないからねっ?」
「すず、今夜はたっぷりお仕置きするわよ。」
「ひぇっ!!」
「あの、風見さん。トオルさんは、何て?」
「いや、特には。」
「なーんだ。よく分かんないけど、お大事に〜。」
「もー、奏太さん!言い方!」
「先生、本当に大丈夫?」
「大丈夫!!」
ガヤガヤと見舞い客が出て行った。
静けさが怖くって、悠は顔を覆った。
「・・・悠、とりあえず今日は帰るわ。」
もう、来なくていい。
そう言いたいのに、唇が震えて言えない。
「果物ナイフ、どこいったかな・・・。ああ、あった。」
もう、そんなの良いから出て行って欲しい。
悲しくて、辛くて、痛くて、泣きそうなんだ。
忘れたはずの唇の感触に、ひりひりする心臓。
腹の傷が開いたような痛みに、えぐるような思い出。
「良く寝て、屁ぇこけよ。」
「・・・うるさい!」
嫌いだ。
律なんて、嫌いだ。
なのに、自宅に持って帰ったペットボトル。
律からもらった思い出のジュースは、自宅の冷蔵庫に入れた。
パタン。
静かに閉まる病室の扉が、物悲しかった。
「・・・戸町さん?」
来客が帰ったのを見計らってやってきた看護師に、もう笑顔は作れなかった。
「どうしたんですか?痛みますか?」
みっともなく涙を流しながら、悠はかぶりを振った。
痛いのは、胸の奥。
体の傷よりも、深い傷なんだ。
「だぃ、じょうぶ。・・・かお、洗いたいです。」
「おしぼり持ってきましたよ。良かったら、からだ拭きましょうか?」
・・・うん。
看護師さんの優しさは、悠の心を癒した。
ひりひりとした痛みはあるけれど、からだを拭いてもらうと少しだけ軽減した。
少し、寝よう。
寝て、そのあと考えよう。
看護師が出て行った静かな病室で、悠は真っ赤な目をゆっくりと閉じた。
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