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初撮影
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「うん!次視線あっちにやってもらえるかな?あーあともうちょっと左腕持ち上げて…そうそうそう!撮るよー!」
「(ひぇ…)」
様々な形のライトらしきものや白い板のようなものに囲まれて、顔の筋肉を総動員させて笑顔を作る。宣材写真を撮る、と聞かされ、きちんとしたカメラを前にするのなんて七五三以来の俺はガチガチに緊張していた。
…が、今はもう緊張なんてしている余裕がないくらい、ポーズを指定され、何度も着替え、その度に髪型を変えられ…
「はいOK!休憩入りまーす!」
「は、はい!お疲れ様です…」
普段使わない筋肉を使ったこともあり、疲労困憊だ。
「お疲れ様。」
「あっ篠塚さん…お疲れ様です」
コツコツとヒールを鳴らしながら俺に歩み寄ってきたのは、マネージャーの篠塚美月さん。美人で仕事もバリバリにできるが、車の運転が荒いのが玉に瑕。
「疲れたでしょう?でもあと2シーンだから、もうちょっとだけ頑張ってね」
「あ、ありがとうございます…」
篠塚さんから水を受け取り、一気に喉に流し込むと、自分の喉が渇いていたことにやっと気が付いた。
「…ふぅ…でも、凄いですよね、皆。いつも堂々としてて…俺はいつ慣れられるのかな。」
「最初は皆そんなものよ。特に穂波は菊田より撮影、苦手だったかもね。」
「えっ、優成さんが?」
優成さんはCDのジャケットや雑誌の特集では、大体余裕を感じさせる笑みを湛えている。化粧品会社とコラボした際のセクシーな1枚でも、色気のある流し目で目を引いていた。だから、なんなら撮影は得意だと思っていたくらいだ。
「意外…」
「どうせこれから嫌って程カメラに向かうことになるから、今の内に新鮮な気持ち味わっときなさい。」
身も蓋もない言い草に苦笑した時、篠塚さんの手の中の端末が短く震えた。
「あら、噂をすれば。…菊田、今穂波から連絡があってね、この上のスタジオでの収録が終わった所から、良かったら一緒に帰らないかだって」
「えっ!?あ、はい、大丈夫ならっ是非!」
プロデューサーに見学可能か確認を取ってくると言い、篠塚さんはさっさと踵を返していった。
Blue Roseのメンバーは皆思っていた以上に忙しくしており、結局顔合わせ以来他のメンバーとは会っていなかった。1ヶ月後のライブに備えてのレッスンも、基本的には俺が一人で受けている。……まぁ、俺だけ基礎の基礎すらなってないんだから、そりゃそうなんだけども。
「嬉しい…」
ぽそりと誰にも聞こえないくらいの音量で漏らす。なぜ誘ってくれたのかは分からないけれど、大好きなアイドルと一緒に帰れるなんて、とんでもない贅沢なんじゃないか。
にやけそうになった顔を引き締めていると、ドアの方がワッと騒がしくなるのが分かった。
「皆さんお疲れ様です、すいません入れていただいて……」
プロデューサーさんに肩を叩かれながらスタッフさん達に歓迎を受けているのは、
「優成さん!」
「浩司、お疲れ様。ごめん、外で待ってるつもりだったんだけど…」
「いえ、そんな、嬉しいです!あ、でも、俺まだちょっと撮影残ってて…」
「うん、聞いたよ。でも篠塚さんが見学の許可を取ってくださって…折角だからちょっと見ていっても良いか?もちろん浩司が良ければ、だけど」
ぶんぶんと首を縦に振ると、優成さんは嬉しそうに笑った。その笑顔にはテレビ越しじゃ伝わらない温かさがあって、心がぽかぽかとする。
「俺、頑張ります!」
「おいおい菊田くん、今までは頑張ってなかったのか?」
からかうようなプロデューサーさんの声にハッとし、慌てて謝ればスタジオ内はドッと笑い声で満たされた。
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