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その日千尋は母の言い付け通り玄関先で一千花の診察が終わるのを待って、二人で一千花の家まで歩き出した。
「陸君と桜ちゃん可愛いよな。俺も兄妹とか欲しかったなぁ」
「あー、そうかよ」
少し先を歩く千尋の素っ気ない態度に一千花は苦笑しながら口を閉ざす。
そのまま二人は殆ど会話を交わさないまま一千花の家まで到着した。
一千花の家は千尋の古民家とは違い、玄関の前に門がある様な立派な家だ。
一千花はこの辺りでは有名な武士の一家の一人息子なのだと千尋は父から聞かされていた。
幼い頃から父親に剣技を習い、一人息子として可愛がられながら贅沢な暮らしを送る一千花が千尋にとってはとても羨ましかった。
「千尋、送ってくれてありがとな」
「別に。それじゃあな」
そう言って目も合わせずに背中を向けた千尋の後ろで突然下駄が滑る音がして千尋は咄嗟に振り返る。
すると玄関先の門の前で柱に半身を押し当てた一千花がそのままズルリと身体を崩れさせていた。
「っ…おい、一千花…!?」
千尋は慌ててその身体に手を伸ばして背中に手を回すと、一千花は千尋の肩口に顔を埋めたまま小さな呼吸を繰り返した。
突然のことに千尋は混乱してどうしたものかと視線をさまよわせていると、不意に千尋の胸に一千花の指先が触れて身体が離される。
「悪い千尋、…ありがと」
「急に吃驚すんだろ…大丈夫かよ」
「平気、ちょっと自分の足に躓いただけだから」
ごめんごめんと笑う一千花はやはりいつも通りの一千花で、千尋は少し訝しげに思いつつもそうかよ、と短く返した。
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