アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1.美術の先生
-
「はぁ…」
日常は退屈だ。
世間のことなどほんの少ししかまだ知らない年齢の浅い17の俺がこんな達観的なことを思うのはやはり一般的な同年代たちと比べて些かズレているのだろうか?
俺は高校に入って美術部に入った。理由は簡単。絵を描くのが好きだったから。
「うん、そうそう。ここに緑色を足すといい感じになるかもね。」
美術室の後方の席から、前にいる美術の先生の周りに群がる同級生たちをちらと見る。
美術部の先生であり美術の先生である名城先生は、そこそこ若くて爽やかイケメンと、風の噂で耳にしたことがある。
確かに落ち着いた襟足の短い柔らかい雰囲気の黒髪にまあまあの若さ、まあまあの整った顔、さらに教師ともなれば、憧れ、恋抱く女子は多いのだろう。
俺はそういった色恋沙汰には生まれてから今までで1度も興味を示した試しがない。
恋なんて、人の錯覚に過ぎないと思っている。見た目が良ければ好きになるし、簡単にときめく。人はなんて滑稽でこうも単純なのか。
……もしかしたら、俺は違うのかもしれない。
そういったことに興味が無いと言いながら、周りのやつらと同類になりたくないだけなのかもしれない。だってずっと知らんぷりをし続けていれば、こうしてすました顔で落ち着いて物事に取り組める。恋なんてものをしたら、きっと、俺は…俺でいられなくなってしまうだろうー
「霜田くん」
ハッ、とふと頬杖をついて窓の外の景色を見ながらいつの間にか眠ってしまっていた俺は突然かけられた声に驚き目を覚ます。
「大丈夫?もうみんな帰ってしまったよ。」
声をかけてきたのはさっきまで皆に囲まれて爽やかに笑顔を振りまいていた美術の先生。ガランとした教室に目をぱちくりさせて、俺は席を立った。
「すみません、…寝てたみたいです」
ぺこ、そう頭を軽く下げ机の上に置いていた描きかけの絵の用紙を取ろうとして、これ、と再びかけられた声に俺は動きを止めて、絵に視線を落とす名城先生の顔を見た。
「すごく素敵だね。…絵好きなの?」
ちら、唐突に顔を上げ覗かれた黒目にどきりとする。
「…まあ」
そりゃだから美術部に入ったんだろ、と心の中で一瞬思ったがこの人がわざわざこんなことを聞くということは俺はそんなふうには見えないということだろう。
「君の作品は、実は前から興味があってね、」
ぺらぺらと喋り出す先生に俺は、はあ…と言って話を聞く。
「1度話してみたかったんだ、君いつも何も話さずに早々に帰っちゃうから」
そりゃ絵を書くためだけにこの部に入ったんだから…。とは、思ったがどこか柔らかな雰囲気を出すこの人にはそんなこと言えなかった。
てゆうか…俺はいま褒められているのだろうか?いや、興味を持たれている…?どっちだ。いや別にどっちでもいいか。
「霜田くん聞いてる?」
ぼうとしていたらしい。一瞬トリップをしていた俺は名城先生にじっと見つめられる顔に向かってやべぇと心の中で思いつつはい、と返事をする。
「…俺前から思ってたけど霜田くんに嫌われてる?」
するとなんでそんな事を急に思ったのか、名城先生がそう俺に少々眉を下げながらはにかんで俺を見てくる。は?なんでそんな事を?
「…別に何とも。嫌ってるわけじゃないですけど」
「ほんと?だって霜田君と全然視線合わないし、避けてるのかなって」
はは、考えすぎか。名城先生がそう笑う。
…いやいや、そもそもあんた教師でしょ。たかだか1人の生徒に万が一にも避けられてようがそこはこう踏み込まずに受け止めるかテキトーに流しておくかすることなのでは。
はたまた、もしや俺がこの人に舐められているのか。
「まあ、ならいいや。早く家に帰って、明日も学校来るんだぞ。」
くしゃ、そう言って頭を触られた。
あれ、…これセクハラ?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 14