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オトの鈴
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「んー……こんなもんかな?」
「どれどれ?」
肩越しに覗き込んできたオトに、手に持った首輪を掲げて見せる。
新品の首輪には、所々塗装が剥がれて錆び付いた鈴がくっついていた。
「これでいい?」
首を傾げてオトを見ると、満足そうに頷いた。
「ありがと、ミコト」
「どーいたしまして。
でも、わざわざ鈴付け替えるくらいなら、新しくする必要なかったんじゃねえの?」
かなりボロボロになってはいたけど、目に余るほどではなかったし。
「んー。
なんかさ、未練がましいかなって」
「ん?」
「死んじゃったひとにもらった首輪をずっと付けてるなんてさ。
まるで縛られてるみたいでしょ」
「……でも、忘れられないんだろ?」
オトにとって、大切なひとだったのなら尚更……
「……少し前まではね、考えるだけでも苦しかったよ。
でも、今は……不思議と、過去のこととしてすんなり受け容れられるんだ。
だから昨日、ミコトにも話せた。
確かに忘れられないし、忘れるべきことなのかも分からないけど、そんなことに捕らわれたままでいたくないって思ったんだ。
それにね……」
オトの手が背中から伸びてきて、おれを抱き締める。
距離が近くなり、耳たぶにぬるい息がかかった。
「おれを縛れるのは、ミコトだけだから。
だから、ミコトに選んで欲しかったんだよ。おれを縛る、首輪を」
「……おれがお前を縛れたことなんて、ないと思うんだけど」
「そんなことないよ。
結構、おれミコトの尻に敷かれてるよ」
「えー、そうか?」
「そーそー」
「んーじゃあさ、なんで鈴付け替えたの?」
「え?
だって、あんなちゃっちい鈴、なんの役にも立たないじゃん。
前にも言ったと思うけど、この鈴にはおれの霊力がたっぷり染み込んでるんだよね。
つまり、おれの身体の一部のようなものなの。それにおれ、この鈴の音色が好きなんだ」
「うん。
なんていうか、すごく透き通ってるよな」
そう言うと、オトは嬉しそうに笑った。
「でしょ?
まぁ当然だよね。おれの霊力が注ぎ込まれてるんだもん」
……あ、そっか。
だから少しだけ、儚いような、哀しいような感じもするんだな……
そんなことを考えていたら、不意に背中からオトのぬくもりが消えた。
その代わりに、青黒の毛並みの猫がちょこんとちゃぶ台に乗っかった。
『ね、首輪付けてよ』
「ああ」
手の中の首輪を、オトの首に通してやる。
前の赤い首輪よりは色味が霞んでしまうけど、こっちの方がオトらしいような気がした。
『似合う?』
「うん」
手を伸ばしてオトを抱き上げる。
嫌がるかなと思ったけど、オトは抵抗しなかった。
ぎゅっと抱き締めて顔を寄せれば、ツヤツヤの毛並みが頬を撫でた。
『どーしたの?』
「……なんか、触りたくなった」
『ミコト、大胆だね』
「別にいいだろ」
『うん、いーよ。
だから、もっと触って?』
「ん……」
抱き締めたまま、オトの頭を撫でる。
そのままスルリと背中に手を滑らせると、少し不満げに尻尾が揺れた。
『背中はやだー』
「そうなの?」
『やだよ。
ミコトだって、背中撫でられても別に嬉しくないでしょ』
「あー、確かに」
『あと、尻尾は触んないでね。
付け根もだめ』
「なんで?」
『尻尾はデリケートなんだよ。
付け根は性感帯だし』
「え、まじ?」
『うん。
……なに、その顔?』
ちょっと興味がわいた……なんて言ったら怒られるかな。
でも、
「触ってもいい?」
どんな反応するのかな、とか。
やっぱり気になるじゃん。
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