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ごめんなさい。
ごめんなさい…
「ごめんなさい…」
深く…もっと深く…
これだけじゃ足りない。
先生に謝罪をさせてしまった…
先生は何一つとして悪くないのに。
謝罪をしてしまった俺が悪い。
深く…もっと…もっと…
「っ…」
深く切りすぎたのか、痛みが響いた。
手を止め、腕を見つめる。
血に染まってどこが切れているのかが分からない…
気が付けば、自分の息が荒くなっていた。
「………。」
何をしてるんだろう…俺…
立ち上がり、シンクで腕を洗う。
血が水と一緒に流れていく様を見つめ…段々と自分のした事の愚かさに気づく。
これじゃあまた先生を怒らせてしまう…
時刻は8時…
先生が何時に帰ってくるか分からない…早く手当しなきゃ。
急いで救急箱を探し、手に取る。
消毒液を傷口に掛け、ガーゼを貼り付ける。
枚数が減ったからバレるだろうか…不安と焦りで上手く包帯が巻けない。
「…っ……クソッ…」
自分でしたことなのに…
これだから先生も怒るんだ。
早くしなきゃ…っ…
『ただいま、勇間…』
「おっ…おかえり…」
なんとか間に合って、料理を作り始める仕草をしていて良かった…
『……ん?』
先生が訝しげな表情をしている。
バレた…?
『なんか消毒の匂いする……』
「あ…えっと…さっき怪我して…」
言い訳用に指先を切ったのも良かった。
先生は血相を変えて俺の指を掴んだ。
『大丈夫か?』
「あ、う、うん…大丈夫…」
『そっか……あれ?ご飯作ろうとしてたのか?』
「うん…でも上手くできなくて…やっぱり先生が居なきゃまだ作れないや…」
『……そっか……そっかぁ〜…』
嬉しそうにする先生は着替えるために自室へ向かった…
その背中を見て罪悪感が押し寄せ胸が痛い。
嘘ついてごめんなさい…先生…
「………。」
着替え終えた先生が俺の隣に立つ。
シンクに転がる食材たちを見て、何を作ろうか悩み始めた…
『んー……勇間は何作ろうとしてた?』
「えっと……」
適当に出しただけなので何も考えていない…
人参、じゃがいも……
「シチュー…とか……」
『なるほど…じゃあそれ作ろうか。』
微笑んだ先生はさっきの出来事に触れない。
それがなんだか今の俺には嬉しい…
でもきっと先生の事だから、頭の中で考えてるんだろうな…
どうやって聞こうか…とかなんとか。
でもそれを聞かれても俺は答えられない…だからこそ余計に先生は考えてしまう…
吐き出せたら楽になるだろうに…ごめんね、先生…
腕がジクジクと痛む。
「…っ…」
『どうした?』
人参とじゃがいもを切り終えた先生が俺の顔をのぞき込んだ。
「ううん…先生手際が良いなぁって…」
『………そ?』
「俺なんか…ほら、怪我するくらいだし。」
『慣れだよそれは……………なぁ、勇間…』
鍋に放り込んだ野菜を炒めながら先生が俺に尋ねる。
わざとらしかったのだろうか…何となく先生が聞こうとしてることが分かる。
使ったまな板と包丁を洗い流しながら耳を傾ける事にした。
腕の事とカイト君の事を言わなければ良い…
大丈夫…上手くやれる。
今までだって上手くやってきてたじゃないか…
「……。」
『なんで泣いてた…?』
「……。」
『答えにくいなら話さなくても良いけど…』
炒める音がやけに耳に響いて、考えてる事が纏まらない。
何を言えば良いのか…分からない。
正直に全て話しても、結局先生に迷惑を掛けてしまう。
俺がまた自傷をし始めたらカイト君はきっと満足してくれるはず…
確信はないけれど、きっと…
自分を傷付ければ…これ以上何も怒らないはず…
カイト君は仲間が欲しいだけだ。
だからこそ、自分だけで解決したい。
先生には…話せない。
纏まらない思考の中でどれだけ考えても答えなんか出ない。
『答えられない…か…』
「……幸せって何だと思いますか?」
『…幸せ?』
幸せな事がカイト君にとって駄目なことなのだろうか…
だから俺に声を掛けるのかもしれない。
『んー………勇間はどんな時に喜びを感じる?』
「喜び…ですか?」
『うん。俺は…ほら、勇間が笑っててくれれば嬉しいし…』
「……。」
『こうやって一緒にご飯作れてるのも嬉しい。』
「俺、は……」
俺は…なんだろう…
先生に謝られると胸が痛くなるし…
「俺も…先生には笑っててほしい…けど…」
『うん…』
けど…なんだろう…
先生を笑顔にさせることが俺には出来ていない気がする…
さっきも怒らせてしまったし。
「………先生と一緒に居るだけで俺は嬉しい…のかも…」
『そっか……じゃあ今幸せって事だな。』
「……。」
『良かった…』
胸が締め付けられる。
幸せって感じられてるのかもしれないのに…あんな…
あんなことして…俺…馬鹿だ…
でも…それでも…
『………。』
夕食を食べ終え、俺は風呂に入ることにした。
脱衣所で服を脱ぎ、鏡に映る自分の身体を見つめた。
傷だけの身体…
汚い……
腕に巻かれている包帯は血が滲んでいる。
「……っ…」
睨みつけるようにその部分を見つめる。
カイト君に挑発され、自分の意志が弱いが故についた傷…
俺は弱い…弱い生き物だ…
包帯を解けば、ガーゼは血をたっぷりと吸い込んでいて…もう役目を果たしていなかった。
着ていた服を裏返すと、うっすら血が付着していた。
お湯で洗えば落ちるだろうか…それとも…捨ててしまおうか…
あの時よりもなんだか惨めに思えてくる。
生きたいと願ったくせに…
先生は優しいから、ゆっくり慣れていこうって言ってくれる。
それなのに…何も無い日常が怖くて…
痛みのない世界が怖くて…
自分の判断の甘さに嫌気が差す。
傷口に爪を立てれば鋭い痛みと共に血が出始める…
この血さえもいまは憎い。
あの日血が出るまで擦った皮膚は…どこもうっすら傷だらけで…
こんな身体に先生が触れると思うと吐き気がする。
全て洗い流してしまおう…
風呂場へ入り、シャワーの蛇口をひねる。
冷たかった水が段々と暖かくなり、体中に当たる。
冷えかけた体温がお湯によって温かくなった…
「……。」
俺は何を考えているんだろう…
自分を傷付ければ先生が悲しむのは当たり前だ。
あの日屋上で言われたのに…
嗚呼…捨てられたらどうしよう…
ぐちゃぐちゃな思考は水と一緒に流れてはくれなかった…
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