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大人しく家に帰ってきたけれど…
洗濯も掃除もすぐに終わってしまった。
何もする事が無い…一息を入れようと淹れたコーヒーももう空だ…もう一杯淹れようかな…そう思い立ち上がると、携帯が鳴った。
先生からメールだ…
―『無事に着いたか?』―
そんなに心配しなくても良いのに…少し頬を緩ませながら、先生に返信を打つ。
「無事着きましたよ…っと。」
すると直ぐに返信が来た。
今は何してるんだろう…生徒の目を掻い潜って打っているのかな…
なんだかそれも可笑しくって、笑えてくる。
先生と過ごしてから…なんかよく笑ってる気がする…
先生のお陰だよ…ありがとう。
そう心の中で感謝を述べていると、ベランダから何か物音が聞こえた…。
嫌な予感がする…恐る恐る窓に近付くと、そこにはやはりカイト君が居た…
どうしよう…今は俺一人だけだ…押し切られてまた変な物を渡されたらどうしよう。
焦りと不安で胸が一杯になる。
今朝のノートを思い出しまた吐き気に襲われる。
もう嫌だ…もうやめてくれ…
〘ユーマ!開けて!開けてよ!!〙
ドンドンと窓を叩く行為はもはや普通の人じゃない…
怒ってもいるのだろうか、その顔は険しい。
どんどんと大きくなっていく打撃音…嫌だ…嫌だ…っ…
少しだけあの頃を思い出してしまう…無理やり押し入ろうとドアを叩く父。
叫び続ける声…
耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。
〘ユーマ…〙
「帰れ!!!!」
気が付けば叫んでいた。
息がし辛い…過呼吸になっているのかも…苦しい…辛い…
もう叫ぶ気力なんて無くて、ただ強くカイト君を睨みつけた。
思いが伝わったのか、声が届いたのか…カイト君は少し悲しそうな顔をして消えた…
脱力感が押し寄せ…俺はその場に倒れ、意識を手放した。
気が付けばすっかり暗くなっていた。
ひんやりとした空気が部屋を包み、辺りも暗くて自分が目を開けているのか閉じているのかわからない程…
冷たい…寂しい…
あの時みたいだ…早く電気を点けなきゃ…夕飯を作って先生を待ってあげなきゃ…
足に力を込めて、立ち上がる。
電気を点ければ少しだけ暖かくなった…ズルズルと壁伝いに座り込む…
蹲り、息を吐き出す。
大丈夫…自分は今、先生といっしょに居て…先生と笑い合っている。
だから大丈夫………そう言い聞かせないと、今にも自分が泣きそうで嫌になる。
「……ご飯…作らなきゃ…」
先生はいつ帰ってくるのだろう…這う様にして自分の携帯の元へ行く。
画面を表示すると、先生からの通知が沢山来ていた…
最初は『早く会いたい』とか『暇なら寝てていいからな』とか来ていたけれど…俺からの返信が来ない事に心配したのか…
『大丈夫か?』とか『急いで帰る』とか、文面からでも分かるほど慌てていた。
心配掛けさせてしまった…
「はぁ……」
ため息を吐きながら、キッチンに立つ。
夕飯は何にしようかと悩みつつ、包丁を手にし固まる…
俺…料理をろくに出来ない。
なのになんでこんなに意気込んで作ろうとしてるのか…怪我してまた心配かけさせるのが目に見えている…
いや、それでも何か作ってあげたい…いつも手助けしてもらってるお礼……にはなら無いかもしれないけれど、こういうのは気持ちだと何かの本で見た気がする。
「…よし…っ…」
気合を入れ、強く包丁を握りしめ冷蔵庫の中身と睨み合う。
犠牲を少なく…かつ美味しいものを…
「………。」
俺にしては上出来じゃないのか?
美味しそうな匂いは…している…
ただのカルボナーラだけど…。
生唾を飲み込み、フォークで少量巻き取る。
ここまでは良い…そっと口に運び咀嚼する…
「おいしい……」
え…おいしい……
一人で感激していると先生が帰ってきた。
玄関へ向かうと、先生が慌てながら抱き締めてくれた。
「わ…っ……お、おかえりなさい。」
『うん、ただいま…大丈夫だったか?』
「まぁ………あ、でも昼間にカイト君がまたベランダに…でも俺、気持ち悪くなってそのまま寝ちゃいました…」
そう言うと先生は膨大なため息を吐いて、より一層俺を強く抱き締めた。
そして頭を撫で付けると、匂いに気がついたのか『ん?』と言って止まった。
「あ…えっと…ご飯……出来てます。」
『………。』
何も言わずに固まる先生。
包丁使った事に怒られてしまうかも…と思ったが、先生は眩しい笑顔を浮かべた。
全身から伝わってくる…嬉しい。という言葉が…
喜んでもらえた…っ…良かった…
先生は着替えてくる、と一言俺に告げて部屋に入って行った。
俺はキッチンへ向かって、お皿に盛り付けた。
タイミング良く完成して良かった…
温かい食事…俺が作った夕飯…俺も嬉しくなって笑みが零れた。
着替え終わった先生がリビングに出てきたので、俺は椅子に座った。
俺は美味しいと思ったけど…先生はどうだろうか…ちょっと不安だなぁ…
『いただきます。』
「いただきます…」
『ん…!』
「……。」
先生が固まった…
不味かったかな…どうしよう。
「ど、どうですか…?」
『すっごく美味しい!ありがとな!!』
「良かった…」
凄く喜んでもらえて本当に良かった…
味は濃くなかったかな?とか、チーズクドすぎたかな?とか心配事が頭に浮かんだけど…先生の食べっぷりを見てそんな事はどうでも良くなった。
カルボナーラ…好きなのかな……また作ってみようかな…
先生の好きな食べ物はなんですか?
嗚呼、もっともっと先生の事が知りたくなってきた。
先生に対しては貪欲みたいだ…
『もう俺なんかより全然上手い!また作って、勇間。』
「うん!」
気が付けば先生のお皿は空になっていた…
食べるの早い…俺も急いで口に運ぶが、先生は『ゆっくりで良いぞ』といって嗜めた。
こんなにも喜んでくれるなら早く作ってあげれば良かったなぁ…
次はもう少し凝った物を作ってあげよう。
心の中でそう決めた。
流しにお皿を片付けた先生は、キッチンから俺に問いかけた。
『そう言えば…カイト君ベランダから来たんだっけ?大丈夫だったのか?』
「あ……うん…大丈夫……ってのは嘘になるけど、気持ち悪くなってそのまま気を失っちゃってたから…」
『………そうか…ごめんな、早く帰って来てやれなくて。』
「んーん…全然良いんです……でも俺、ちゃんと帰れって言えました。」
『…偉かったな。』
そう言って先生は俺の頭を撫でてくれた。
優しい手つきで…さっきまで苦しくて、寒くて……寂しかったのに全部無くなった…
先生は本当に凄いや…こんなにも容易く俺を安心させてくれるんだから。
「これからもちゃんと嫌な事は嫌だって言葉にしていくね。」
『うん……あ、無理な時とか辛い時もちゃんと言えよ?』
「ん…」
俺も食べ終わったお皿を流しへと運ぶ。
洗おうとしたけど、ご飯を作ってくれたお礼…とか言って先生がやってくれた…
お言葉に甘えて俺は、大人しくソファーへ腰を下ろした。
テレビでは他愛も無い事で笑っている芸能人達がいて…
疲れないのかな…とか思ったり…
水の音とお皿のカチャカチャとした音が心地良い。
「ね…先生…」
『んー?』
「俺を好きになってくれてありがとう。」
『うん。』
「俺をあそこから救ってくれてありがとう。」
『うん。』
「……俺を……見つけてくれてありがとう…」
『どういたしまして…』
柔らかい雰囲気が部屋全体を包む…
嗚呼…先生、どんなに言葉にしても足りないや。
自分なりに表現しても、倍で返ってきてしまう…
先生……先生……
本当に好きだよ…大好き。
「だからこそ………ごめんね…」
その言葉は先生には届いてなかった…いや、届かなくて良かったかもしれない。
謝るなんてお門違いだ…胸に仕舞っておこう…
巻き込む形になってごめんね…
トラブルばっかでごめんね…
あの時謝らせてごめんね…
泣かせてごめんね…
好きになって…ごめんね…
新しい世界は幸せで…ちょっぴり苦しかった…
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