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先生が出てってしまった…
もう帰ってきてくれないかもしれない。
嗚呼…どうしようどうしようどうしようどうしよう…
俺が悪いんだ…
俺が…俺がこんなことしちゃったから…
何とかしなきゃ…先生にばっか頼ってちゃ駄目だ。
するとチャイムが鳴った…
先生かと思って急いで玄関を開ける。
すると、そこに居たのは…
「カイト君…」
包帯の数が増えているカイト君…何しに来たんだろう…
妙に緊張しながら見つめる。
対するカイト君は笑顔とも真顔ともどっちともつかない顔をしている。
今日は…何も持ってないみたいだ…
「どうしたの…」
〘今日は…ユーマひとりなの?〙
「え…う、うん…そうだけど…」
〘ふぅん………ね、ユーマ…僕ねユーマに謝りに来たの。〙
「謝りに…?」
〘そう。はぁくんにすっごくすっごく怒られちゃって…だから……ごめんなさい…〙
すごく落ち込んだ様子で頭を下げるカイト君…根は良い子なんだろうけど、今までのことも相まって中々第一印象は覆らない。
「それは…別に良いけど…」
〘これからも仲良くしてくれる…?〙
「……何もしないならね。俺…先生の為にも変わりたいんだ。だからもうこの間みたいな事とかは止めて欲しい。」
しっかりと伝わるように…
刺激しないように…
自分の意志を伝えていく…まずはこの問題から解決していこう。
自分から行動しなきゃ…
〘うん、分かった!〙
「……。」
〘ユーマ…〙
「?」
〘せんせーは?〙
「先生は…今居ないよ…」
〘そっか…なんかユーマ元気ないね…喧嘩しちゃったの?〙
「…そんなとこ、かな…」
喧嘩…
それならまだ良い方なのかもしれない。
今のこの状況は何て名前を付ければ良いんだろう…喧嘩でもない…ただ失望はされてしまった…と、思う…
謝ったら許してもらえるのかも危うい。
じわりと視界が歪む…
〘ユーマ……ユーマ泣かないで…〙
「ごめん……俺も今分からないことだらけで…」
〘僕、ユーマの味方だよ?はぁくんだって居るから!…だから泣かないで…〙
泣きそうな顔で俺の頭を撫でてくるカイト君…
嗚呼…俺一人じゃないんだ……カイト君も速水君も…日下君もいるのに……先生だって…居るのに………
何で気付けなかったんだろう。
勝手に一線を引いてたんだ…嫌われる以前に俺が…先生と少し距離を置いていたんだ…っ…
今朝だってパニック状態で何も伝えられていなかった。
嫌われたくない一心でまた傷を作っていた……ちゃんと話していればこんな事にはならなかったかもしれないのに…
俺…本当に馬鹿だ……
〈カイト?…お前また…っ!〉
「あ…違うよ…カイト君は今謝りに来てくれただけで…」
〈そう、か………あの…どうかしたのか?〉
「ちょっと…」
〈家で良ければ、お茶でも飲んで落ち着かない?〉
「………。」
ふわりと微笑む速水君…
優しい笑顔で…なんだか心が緩み始めた…
嗚呼…こんなにも優しい世界なのに…。
「ありがとう…」
〘おいでよ、ユーマ!〙
「……うん…」
今度は俺から歩み寄りたい…でもその術がない…
何か一つでも分かることがあれば…直ぐに実行したい。
「お、じゃま…します…」
同じ家の造りなのに…なんかやっぱり他人の家って感じがする…
玄関で狼狽えている俺の手を掴み、家の中へと引っ張るカイト君。
「ちょっと待って…靴脱ぐから…」
〘早く早く!〙
〈カイト、そんなに急かすんじゃないよ。〉
〘だってぇ〜……〙
落ち込むカイト君に手を引かれながらリビングに入る…
必要最低限しかないような、そんなリビング…先生の家とは違う…
あれ…壁になんかシミ……これは…血だ。
カイト君の怪我から見て…頭を打ち付けた…のかな…
少し青ざめていると、後ろで速水君がコーヒーの入ったマグカップを手に微笑んでいた。
〈それ…カイトがパニック状態になった時、壁に頭を強く打ち付けてね…それでそこに血がついちゃって…落ちなかったんだ。可愛い思い出の一つだから良いんだけどね。〉
「………。」
可愛い思い出…って……
これのどこに可愛さがあるんだ…やっぱりカイト君も速水君も変わっている。
〘ユーマユーマ!!〙
「わ…っ…」
コーヒーを溢しそうになりながら、カイト君を受け止める。
それを速水君は椅子に座りながら眺めている…
そう言えば…カイト君から速水君に触れているのは見たことあるけど…速水君からカイト君に触れている所はあまり見たことないかも……引き寄せたりとか、そういうのは見る。
自分から触れないようにしてるのかな…なんか…少しだけ先生と似てるかも…
〘ユーマ、僕は頼りないかも…だけど、はぁくんは頼りになるから!話してみたら…?〙
「………。」
ちらりと速水君を見ると、優しく微笑んでいた。
全てを話すのは…しなくていいか…要所要所で何か意見を貰おう…
「えっ…と…」
〈話しにくい内容ならそれは話さなくても良いよ…話せる内容だけ聞かせてくれれば……まぁ、俺が力になれるかは別として、ね。〉
「は、い…」
落ち着いているなぁ…俺より歳上なのかもしれない。
大学生…なのかな?
速水君の前の椅子に腰を下ろすと、俺の隣にカイト君が嬉しそうに座った。
話す…か………俺の事を知っているくらいだから…傷の事は話しても良いとして…先生の事は…
頭で色々考えていると、また速水君が微笑んだ。
〈ゆっくりで良いよ、勇間君が話したいタイミングでね。慌てて話しても、聞いた方も話した方もスッキリしないし。〉
「ありがとうございます……」
少しだけ重くなった口を開け、話し始めた俺を優しい目で見つめる速水君…
そして、隣で安心させるためなのか手を繋いでくれたカイト君。
気は抜けないけど…良い人で良かった。
話し終わった後、すっかり温かく無くなってしまったコーヒーを口に入れた。
苦味が口の中に広がって…嗚呼、先生は俺の為に砂糖を沢山入れてくれてたんだな…と思う。
〈なるほど……一応だけど、優しい言葉か率直な言葉かどっちが良いかな?〉
「え……」
〘はぁくん、ユーマ泣かしちゃヤダよ!〙
〈大丈夫だよ…まぁ、受け止め方にもよるけどね……で、どっちが良い?〉
「えっと………率直、で…」
〈分かった。〉
微笑んだ速水君は、コーヒーを一口飲んだ後…俺を真っ直ぐ見つめた。
思わず目を逸らしたくなるほど…その目は圧があった。
〈話を聞いただけだからあまり確信はないんだけど、二人共ただ逃げてるだけだよね。〉
「逃げ…」
〈そう、逃げてる。勇間君は先生に嫌われたくない…だから自分の深いところは話さずにいる。対して先生の方は、優しい言葉を掛けて居るけれど…勇間君の深い所に触れようとしていない。お互いに一線を引き合ってる…〉
「………。」
〈触れるのが怖いからじゃないとは思うけど……先生の事は勇間君の方がよく知っているとは思う。だけど、話を聞いた第三者から言わせてみると逃げ回ってるようにしか思えない。〉
逃げてる…
お互いに…?
でも確かにそうかもしれない…俺が話さなければ先生は何も聞いてこない。
〈現に、今回初めて勇間君が自傷している所を目の当たりにして…多分先生も困ってるんじゃない?〉
「………。」
〈向き合ってるようで、向き合えてないんだよ君達は。人はね、相手の深いところに触れてそこで初めて向き合えるんだ…でもそこでお互いに一線を引き合って、逃げ回っていたら何も先に進めてない。〉
「でも……」
〈先生は待つって?〉
「……。」
黙って頷くと、速水君は鼻で笑った。
〈そう……先生は怖がりなんだね。〉
〘はぁくんは強がりだよねぇ〜〙
〈ふふ…そうだね。〉
「………。」
〈先生に話すのは怖い?〉
「え…?」
〈君の深い所。〉
俺の…深い所…?
〈………君の口からじゃないと分からないことだってあると思うよ?あの家でどんな扱いを受けて、どんな事をされてきたのか…先生は勇間君の身体をみて判断しただけだから、知らないことは多いと思う。汚くて…気持ち悪い事をされた、だなんて知らないでしょ?〉
「…っ…!」
頭の中で父に犯された事がフラッシュバックする。
血の気が引いて行くのが自分でもわかった…震えそうになった手を、カイト君が強く握り締めてくれた。
〈その辺りが君の深い所…かな…。〉
ふわりと微笑む速水君が…少し怖く感じる。
〈まぁ、そんな直ぐには流石に無理だとは思うけど…今回を利用して話してみるのもいい手なんじゃないかな。お互いに曝け出して話し合いが出来ると良いね…。〉
「………。」
〈俺とカイトはね、中学の頃に出会ったんだ……病院でね。分かる通り、カイトは親から十分な教育を受けていない。俺は許せなくてね…勿論その事だけじゃないけど。〉
〘はぁくん?〙
〈ん…大丈夫だよ。……カイトをあの人達から奪って、俺は幸せだと思ってる。カイトを幸せに出来るからね……でも、先生はどうかな?勇間君を連れ出して、結果これだ。何一つ変わっていない…まぁ、変わったと言うのならば勇間君への暴力行為が無くなったっていう点だけだ。たったそれだけ。あぁ、勿論いい進歩だとは思うけど…でも見方によってはそれだけって捉えられる。〉
速水君の言っていることは分かる。
確かに…怪我の理由が一つ減っただけだ…
でもこうして無意識だったとしても、また傷を作り出している。
変わっていない…
けれど、先生が俺にしてくれた事が無駄だったとも言えない。
速水君はそれも分かった上で言葉を掛けてくれている…
〈子供がする逃避行みたいだね。〉
「……っ……それでも…それでも先生は俺の為に沢山してくれている。」
〈そうだね…〉
「でも……違うの、かな…」
〈…それは他人に求めていい答えじゃないだろ?二人で話し合ってみたら分かるんじゃないかな。〉
「………。」
〈さて、と……勇間君。〉
「はい…?」
〈君はどうしたい?〉
「え…」
〈君は、この状況をどう打開したい?〉
重く、苦しいこの状況をどう打開しようか…
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