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夢を見た…
昔の夢を…
苦しくて辛い夢…
痛くて気持ち悪い夢…
叫んでも誰も助けてくれない…
「助けて……」
胎内を抉る父のモノ…
嗚咽が口から溢れ出す…
「嫌だ…」
殴られ蹴られ…
気を失っては痛みで覚める負の連鎖…
温かい光などずっと無かった…
「う…っ……うぅ…っ…」
泣けば泣く程惨めな気持ちになった…
平凡な生活をしている周りが羨ましくて…
今思えばきっと妬ましかったんだ…
だから何度も腕を切りつけても…
大量の血が溢れ出ても…
満たされなかった…
自分には無かったから…
自分では掴めなかったから…
「……。」
いつしか助けを求める事も、抵抗する事もやめた…
無駄だと知ったから…
誰も助けてくれはしない…
神様に祈っても無駄だった…
全てを諦めた…
『勇間…』
けれどそんな俺を見つけては声を掛けてくれる人が居た。
冷たくあしらっても…
突き放しても…
何度も何度も俺の前に現れた…
その時温かい光がやっと差したんだ…
けれど、自分には返せるものはなくて…
それに触れるのが怖かった。
優しさを受け入れるのが怖かった。
自分にそこまでの価値があるとは思えなかったから…
先生の淹れてくれる珈琲が好きだ。
先生の優しさが好きだ。
先生のタバコの匂いが好きだ。
先生の抱きしめ方が好きだ。
先生のキスが好きだ。
先生の存在が好きだ。
先生が好きだ…
出会った頃は何も要らなかったのに…
出会った頃は何も望まなかったのに…
今ではこんなに貪欲だ。
今ではこんなに欲しがりだ。
人は慣れると欲を出す生き物で…
とても醜い…
それでも先生は俺が欲しかったものをくれる。
俺が妬んでいた日々をくれる。
俺が触れられなかったものをくれる…
俺のペースに合わせてくれる。
こんなにも良い人で…
こんなにも愛おしくて…
戸惑い、傷つけてきた。
それでも隣りに居てくれた…
それでも隣りに居させてくれた…
涙が流れば拭ってくれた。
涙を流せば一緒に泣いてくれた。
先生…
俺を救ってくれてありがとう…
先生…
俺を好きになってくれてありがとう…
先生…
俺と一緒の道を選んでくれてありがとう。
『勇間…!』
「ん…………あれ…先生…?」
目の前には先生の焦った顔がある…
さっきのは夢だったのか…
『良かった…凄く魘されてたから心配した……揺らしても中々起きなかったし…』
「あ…ごめんなさい……」
まだ頭が働かない…
窓を見ればカーテンがしてあって、その隙間から暗闇が見えた。
嗚呼…夜になったのか…
それとも1日中寝ていたのか…
怠い身体を起こし、別途の縁に凭れ掛かる。
『水飲むか?』
「ん…」
夢…
苦しかったような…
幸せだったような…
そんな事を思いながら差し出されたコップを受け取ろうと、腕を伸ばした。
鋭い痛みが一瞬広がり、顔を顰める。
『どうした?』
嗚呼…そういえば。
昨日切ったんだっけ…
「寝違えたのかな…」
それなりの言葉で誤魔化す。
先生はその言葉をすんなりと受け入れ、心配そうな顔をしながら隣に座った。
『そういえば…テスト勉強とかしてるのか?』
「まぁ…それなりにはね。先生が持ってきてくれたし、鞄にも入ってるしね。」
『そっか……対して日下君は苦しんでたぞ。』
「でも日下君頭良いし…大丈夫だと思うけどなぁ…」
『叶に怒られたくない一心でやってるみたいだぞ。』
二人で笑いながら話していると、日下君と叶先生が入って来た。
片手には小さな箱を抱えている。
〔やっほー!〕
「学校お疲れ様…」
〔途中でケーキ買ってきたから食べよ!〕
「ありがとう。」
[好みとか分からねぇから適当に買ってきた。]
『サンキュー。』
箱を開けると甘い香りが部屋中に広がった。
ケーキなんてどれくらい食べてなかっただろうか…
どんな味がしただろうか…
どんか食感だっただろうか…
忘れてしまっている…
思い出そうとすると、父と母の笑顔もついてくる。
かなり昔のようだ…
〔勇間はどれにする?〕
「ん…あー……チョコケーキにしようかな…」
〔おっけ!じゃあ俺はこれー!かなちゃんはチーズケーキだっけ?〕
『おいおい、俺には選択肢無いのかよ!』
〔真羅先生にはコーヒーケーキって決まってるから!〕
『しょうがねぇなぁ…』
渋々といった感じで、先生はお皿に載せられたケーキを受け取った。
「……。」
目の前にはチョコケーキ…
甘い匂いが何だか気持ち悪く感じる。
何度も頭に浮かぶ両親の笑顔…
「………。」
それが段々と歪み始める。
〔勇間?〕
「あ……ありがとね、いただきます。」
〔もしかして…甘いもの苦手?〕
「ううん……その…」
『……。』
[あまり良い思い出は無い…か?]
的確な言葉を言われ、胸が跳ねた。
良い思い出…なのかもしれない…でも、今の俺にとっては違うのかも…
「………多分、一度は食べた事あるんだと思う…けど、何でかな…笑顔の父と母が浮かんでるんだ。」
それが気持ちが悪い。
〔そっか……ごめんな…無理して食べなくて良いから!〕
「ううん…折角、日下君と叶先生が買って来てくれたんだし…食べるよ。」
小さくフォークで切ったケーキを口に運ぶ。
甘くて…美味しい。
「美味しい…」
〔良かったぁ…!〕
『……。』
[良い思い出じゃ無いなら、これから塗り変えてけば良いじゃねぇか。]
「……。」
叶先生の言葉を頭で繰り返す。
塗り変えて行く…
そうか…
そうだよね…良い思い出じゃ無いからって逃げる必要は無いんだ。
「はい、そうします…!」
『俺のも食べるか?』
〔えー!それなら俺のもあげたい!!〕
[お前らなぁ…]
賑やかになる中で、俺は何だか泣きたくなった。
甘くて美味しい…
けれどしょっぱくって…
〔泣くなよ勇間ぁ…〕
「ぁ……ご、ごめん…美味しくって…っ…」
『それならもう毎日買ってやるから…』
[毎日は飽きるだろ……倉沢、食べるのゆっくりで良いからな。]
優しさが怖かった…
けれど今は、その優しさが嬉しい。
日下君も叶先生も…皆優しい。
こんな俺に優しい…
知る事が出来て良かった。
優しさがこんなにも温かいことを…
ケーキは涙の味がした。
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