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「じゃあ先生、行ってきます。」
『うん………………やっぱちょっと待って。』
「先生…何回目ですかこれ…」
『いや…だって……本当に嫌だ…』
「ふふっ……大丈夫ですって、じゃあ毎夜電話します。」
叱られた犬のように落ち込む先生を、撫でる。
嗚呼、この人は本当に愛おしい…そう思いながら触れるだけのキスを頬に落とす。
『……何か勇間…積極的になったなぁ…』
「嫌ですか?」
『いや、全っ然!』
「じゃあ、今度こそもう行きますね。」
『…送ってっちゃ駄目か?』
「先生……」
かれこれ何時間このやり取りをしているだろうか…
本当は10時に出る筈だったのに、もうお昼過ぎだ。
「ふぅ……分かりました、近くまで送ってって下さい。」
『分かった。』
了承を得ると、先生は急いで車の鍵を取りに戻った。
数秒程経った後、バタバタと戻って来た先生は靴を履いて僕の手を引いた。
『駐車場まで、手を繋ごう。』
「はい…」
名残惜しいんだな…
僕だってそうだ…何ヶ月…何年にもなるかも知れない。
それでも決断した僕を、先生はやっと認めてくれた…
ちゃんと連絡さえすれば先生は平気だろう。
『じゃ、行こうか。』
「お願いします。」
流れる景色…
この景色も見納めか…なんて、少しだけ寂しく思う。
先生の元へ戻って来る…それは確定ではない。
戻れたら戻る…そんな意味だ。
先生は理解していない、それを僕は分かっている。
だからこそ、自由に動き回れる。
"俺"の言い分も分からない訳ではない、大切な人を巻き込みたくないって…
けれど、僕にとっては周りなんて正直如何でも良いんだ。
自分さえちゃんとしてればね。
上手く周りを使って、自分の手は汚さない…
完璧だったのになぁ…
なんでアイツ病院に来るかなぁ…自分の神様の命令くらいちゃんと聞けよな。
『勇間?』
「あ、はい…どうしました?」
『いや…何かイライラしてるみたいだったから…』
「あぁ…大丈夫ですよ。ちょっと俺、不安みたいで…」
『そっか…無理はするなよ?』
「はい…分かってます。」
あの家に着いたらまず、自分を戒めよう。
なんせ、僕の事を忘れてるんだから。
思い出させる為に…。
甘ったるい時間に浸かってた自分が気持ち悪くて仕様が無かった。
その甘さに侵食されていく脳も…
僕はあんなにも辛い思いをしていたのに。
気がついた時いつも親父のブツの相手役…殴られ役…
全て僕の役目だった。
気持ち悪い事と痛い事が終われば、決まって僕の記憶は飛ぶ。
ほんの一部分しか絶望を味わっていない癖に…被害者ヅラしやがって…
周りの奴らも"俺"も…僕は大嫌いだ。
"俺"ばかりが成長して…僕はずっと中学生のまま…
見た目だけ変わっている…それがどんなに辛いか。
幸せそうで羨ましいよ…けど、もうそんな幸せなんてやらない。
僕がこれからを歩むんだ…
大丈夫…上手くやれる。
『……着いたよ。』
優しい声音で呟いた先生…
そういえば、離れるって話した時なんで先生泣いたんだろう。
それらしい言葉並べ、了承を得る事は出来たけど…僕には理解できないな。
泣くほどなのに簡単に許すなんて…馬鹿らしい…恋愛ごっこかよ。
「ありがとう、先生…」
『勇間…俺はお前の味方だからな。』
「うん…」
何言ってんだバーカ。
僕はお前の助けなんか要らないね。
嗚呼…でも、先生の為だって言えば何でも許してくれるしなぁこの人…
大好きじゃん……でも、僕のじゃないんだっけ。
良いなぁ…羨ましいよ…"俺"は僕だけど…僕じゃない…
「じゃあ、今度こそ行くね…バイバイ、せんせ。」
『……勇間、お前』
何かを言いおうとした先生の言葉を、車の扉を閉めて遮った。
僕にまで甘い言葉を吐かなくていい。
気付かなくていい…
そうしたら本当に僕は…戻りたくなくなる。
僕と一番最初に出会ってくれてたら…こんな事にはならなかったのかも…先生…僕も先生が好きだよ。
でも、それは許されないんだ…
僕は"俺"みたいに強くないから…
「……よしっ。」
自分に喝を入れて、玄関のドアを開ける。
怖いのは僕も同じだ。
下手したら"俺"よりも僕の方が怖い…
中に入ると、変わらない自分の家の匂い。
普通なら安心するはずの匂い…けれど、冷や汗と共に吐き気も競り上がって来る…
「…ッチ」
舌打ちをしながら、荷物を自室へと運ぶ。
自分の部屋は、染み付いているのか血の臭いがした…
懐かしい臭いだ…
フローリングの木目の溝に、固まった血液が付着している。
もうこれは取れないなぁ…なんて思いながら、別途に腰掛ける。
「………。」
さて、これからどうしようか…と、悩みながら自分の腕を切る。
久し振りの感覚に手が震えたが、構う事なく横に引く。
プツプツと血が出始め、床に滴る。
そう…これだよ…僕の存在を確かめる為の手段…
嗚呼…痛い…痛いけれど…懐かしい。
その感覚に浸りたくて、何度も何度も切った。
ふ、とあたりを見渡せばすっかり暗くて、自分の周りには血溜まりが出来ていた。
血の臭いも充満している…
時刻は20時……そろそろ色々支度をはじめなければ。
手当をしながら少し今の状況を考える…
取り敢えず学校には行かなければならない…が、僕はまだ中学生だ。
高校生の勉強について行ける気がしない。
別途から立ち上がり、机の上に教科書を広げる。
うん、分からねぇ。
頭を乱雑に掻き毟りながら、椅子に座る…
勉強の時だけ"俺"を起こす?
それもそれで面倒臭い…
「あ゛ー……」
背凭れに全体重を乗せ、天井を仰ぎ見る。
容易く一人になれたけれど…この先のプランがめちゃくちゃだ…
アイツを使うか…コイツを使うか…悩んでは打ち消し、また悩む。
僕の存在はバレてはいけないからなぁ…
嗚呼…お前が作った世界は窮屈だな。
虫唾が走るほど甘ったるくて、息苦しくて…
羨ましいよ…
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