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真羅 ~side~
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《勇間君って本当に綺麗な肌してるよね!》
「そうかな?」
本当だ…凄く愛想良く微笑んでいる。
校内で全く笑わなかった勇間が…
良い事だけれど、今は喜べない。
アレか本当の勇間では無いと分かっているから…
溜息を飲み込みながら再び顔を上げると、女生徒が勇間の頬に触れていた。
「あ、そろそろ授業が」
『っと、悪い…勇間借りてって良いか?』
身体が勝手に動いていた。
女生徒と勇間の間に割って入り、手を取る。
『行こう。』
「あっ…ちょっ…」
腕を引きながら、教室を出た。
叶と日下君も向かった先に居る…皆険しい表情だ…
嫌な雰囲気にはならないよう、早めに落ち着かなきゃ。
少しだけ涼しくなった屋上…
重苦し空気が、俺達4人を包む。
さて、どう切り返そうか。
「あの…」
『………勇間。』
「はい…」
『あー……っと…』
[チッ…面倒くせぇ奴だな、ハッキリ言えよ。連れ出したのテメェだろ。]
『………。』
やっぱり、聞きたくない…分かっているけれど、聞きたくない…
なんて我儘な思考なんだ。
思考を投げ捨てるように頭を振り、勇間の方へ目を向ける。
「確信も無く僕を連れ出して、何がしたいんですか?」
『………。』
〔あ……のさ、君は…誰?〕
「誰って……アンタらの知ってる勇間ですよ。ま、今は誰でもないか。」
口調も雰囲気も何もかも違う…
勇間は苛々した時あんなに乱雑に頭を掻き毟らない。
これは…この子は一体誰だ…?
「そんなに敵視しなくても、僕のやりたい事が終わったら返してあげますよ…それで良いだろ?」
『………君が何をしようと構わないけど、身体には傷を作らないでくれ。』
「……見てられないから?昔のコイツと重なるから?」
『……。』
「…んだよそれ…コイツが前に進もうがお前らの思考は変わんないのな。」
『そういう事じゃ無い…』
「友情ごっこなら他所でやってくんない?僕は迷惑なんだよね、その優しさ…偽善者な癖に変に絡んで来てさ。」
嗚呼、頭が痛くなる。
勇間と話しているはずなのに、勇間じゃ無くて…
どう対応すべきなのかも分からない。
[おい、クソガキ…]
「は?」
[いい加減にしろよ。]
ドスの効いた声でそう言い放つ叶…
その表情は怒りを孕んでいる。
強く勇間を睨みつけ、視線を捉えて離さない…
[お前がいつから居るのかもどんな事を味わってたのかも俺達は知らねぇ、けどな…ちょっと勝手過ぎやしねぇか?]
「この身体は僕の物でもある、何しようが勝手だろ。」
[ああ、勝手だな。]
「っじゃあ」
[でも駄目だ。]
「っ…」
[お前が傷を作るたびに、関わってきた奴らが心配して傷付く…そういうのも配慮してやれよ。]
「そ、んなの…僕には関係無い!」
[お前が関係無くても、勇間が一生懸命創り上げた絆だ。容易く台無しにしてんじゃねぇ。]
言いたいことを失ったのか、叶を睨み付ける勇間…
嗚呼、勇間じゃないんだ…でも…
「僕が好き勝手に動いたら台無しになる…そんな脆い絆なんだ?」
絞り出すような小さな声…
その言葉に腹の奥が熱くなった。
『そんな訳ねぇだろ。』
「……。」
腹が熱い…
頭にまでその熱が登りそうで…嗚呼、苦しい…
拳をキツく握り締めていると、叶に肩を抑えられた。
[おい…真羅、落ち着け。]
『俺は落ち着いてる。』
[どこがだ、今にも殴り掛かろうとしてんだろ。中身は違えど、倉沢なんだ…耐えろ。]
『…っ…分かってる。』
深呼吸をして、もう一度勇間の方を見る。
見た目が勇間なんて…何も出来ないじゃないか…
苦しい…
歯がゆい…
もどかしい…
様々な感情が一気に押し寄せる。
「……そんなにコイツが大事?」
〔当たり前だろ、早く俺達の知ってる勇間を返せよ!!〕
「五月蝿いなぁ、急に大声出さないでよ…日下君はもっと穏やかな人だと思ってた。」
〔黙れ…っ…〕
『君の目的は何だ。』
「俺の目的?…そんなの決まってんじゃん、俺が一番殺したい奴に報復するんだ。」
『…父さんか?』
「そうだよ。」
『彼はもうこの世に居ない。』
「…あはははっ!!」
急に腹を抱えて笑いだした…
何が可笑しい?
「皆騙されてんじゃん!」
『…は?』
「アイツ、まだ死んでないよ?」
[どういう事だ?]
「僕を崇拝してる子がしくじったんだ…だから生きてる。居場所はもう把握してるから良いけど。」
生き…ている?
何故だ?
あの生徒と彼はグルだった?
居場所は把握している…と言う事は、監禁している?
あの事を知っている?
ならばその時から既に勇間と彼は入れ替わっていた?
それともその時だけ?
あの日は勇間の様子も俺も可笑しくなった…取り込まれていた…
じゃあやっぱりあの時は…っ!
[大丈夫か…?]
黙り込んだ俺の耳元で叶が囁いた。
その言葉に軽く頷き、微笑み返した。
『……いつから勇間の中に?』
「ずっとだよ…ずーっと…」
〔ずっと…?〕
という事は、彼の時にも暴行を受けてたのか…
それなら周りの人間への横暴な態度も、納得いく。
「僕の時ばっかなんだ…何もかも、ね……殴られるのも、ヤられる時も。」
『………。』
「コイツが気が付いたら全てそれらは終わってる…でも僕はずっと味わい続けていた……父さんだけじゃ無い、コイツにも報復してやりたい。」
心臓の位置でキツく服を握り締めた…その手は微かに震えている。
自分の時ばかり辛い事が起こっていた、それは充分な動機でもある…
『だとしても、その身体も心も…今は独りじゃ無いんだ。』
「だから?……それは僕じゃない。僕には関係無い。」
[傲慢だな……本当は羨ましいんだろ、お前。]
「…は?」
叶の言葉に反応し、より一層鋭い目をした彼…
その目に怯むこと無く叶は喋り続ける。
[自分には無い幸せを創り上げてく倉沢が、羨ましくて羨ましくて仕方ねぇんだろ。]
「違う…」
[お前がどんなに辛くても、倉沢は笑っている…それが堪らなく苦痛なんだろ。]
「違う!!!」
声を荒げた彼は、ポロポロと涙を流し始めた。
泣くつもりは無かったのだろう…彼も驚きながら目元を拭った。
胸が苦しい…
「僕は…僕は!」
『…もういい。』
中身は違えど、勇間は勇間で…
泣いてる姿何か見たくない、そう思っていたら身体が勝手に動いて、彼を抱き締めていた。
「離せ!」
『離さない。』
「離せよ!!」
何度も胸を叩かれるが、痛くない。
『勇間と同じくらい幸せにしてやる…だから』
「僕はそんなの望んでない!!今更…っ…今更大人が何するって言うんだ!!僕が声を上げても見捨てた大人がっ!!」
『俺達は違う。』
強く…強く抱締める。
これは、昔の勇間だ…
大人に助けを呼べなかった勇間…
周りを信用できなかった勇間…
愚かな大人たちと、周りの人間が創り上げた勇間…
「………っ…アンタらがどんな人間か、知ったとこで僕の目的は変わらないよ。」
『それでも良い…俺はお前を信じる。』
「……どうして…」
『そんなの、決まってるだろ?俺は勇間を…倉沢勇間と言う人間を大好きで愛しているからからだ。』
「………。」
俺を見上げ、呆けた顔をしたこの子は…
やっと歳相応の顔になった。
頬に手を添えて、ゆっくりと微笑みかける。
『先ずは…煙草の味からかな?』
「なっ…!あんなの!」
『お、知ってたか。』
顔を赤らめ、俺から身を離した。
そんな彼を見て俺は何だか嬉しくて…
『勇間だから言うんじゃない…君自身の身体でもあるから言ってるんだ。』
「……。」
『もう傷を作らないでくれ…』
[ま、愛想良くしている所辺りは倉沢にも見習って欲しいけどな。]
〔えー?俺はどっちでも嬉しいけどなぁ〜…〕
「何だお前ら…どいつもこいつも変人だな…」
『ふふ…勇間が創り上げた絆だよ。』
「………。」
先程の発言を少し後悔しているのか、バツが悪い顔をした。
軽く頭を叩き、彼の腕を引きながら腰掛ける。
『もし、君がお父さんを殺すつもりなら俺達は全力で止めるよ。』
「何で…」
〔当たり前だろ!犯罪者になんかさせたくない!〕
「………。」
[それに、これから先にも影響してくるからな…]
〔まだまだ勇間と俺、過ごしたいし!何だったらお前とも仲良くする!!〕
「………。」
『だから…お願い、皆の気持ちも考えて欲しい。』
「………。」
俯き、顔を上げない…
考えてくれているのだろうか。
「…少しは考えとく、でも僕の意思は変わらない。」
『それでも良いよ…けど、その前に止めてみせる。』
「…ふっ…強気だな。」
『そうやって心から笑えば、歳相応だな…中学生くらいか?』
「………彼方だよ、僕の名前。」
『彼方か…いい響きだな。』
〔他の人にバレない様に、俺達だけの時に呼ぼ!その方が分かりやすいし……正直なんて呼べば良いのか分かんなかった…〕
[正直な奴だな、お前って。]
少し寒くなってきた風が少し心地良くて…
秋の訪れを感じると共に…新しい何かが始まる予感がした。
大丈夫、また一つ壁が出来たとしても乗り越えれば良い…
ただ…そうだな…
あまり彼方と仲良くならない様にしなければ。
だって…
勇間じゃ無いんだから。
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